朝のポンテ・ヴェッキオ

フィレンツェのポンテ・ヴェッキオ(Ponteは橋、Vecchioは古いという意味です)を2019年5月に訪問したときの写真です。昼間は観光客でごった返していましたが、早朝だったので、人影はまばらでした。この橋の両側には貴金属店が並んでいますが、みんな鎧戸が閉められていました。この橋の下を流れているのはアルノ川(Fiume Arno)で、写っているのが上流(東)側となります。橋の2階部分はヴァザーリの回廊(Corridoio Vasariano)の一部となっています。この回廊は、ウフィッツィ美術館(Galleria degli Uffizi)の北側にあるヴェッキオ宮殿(Parazzo Vecchio、現在は市庁舎となっています)から始まってウフィッツィ美術館を通って、この橋を渡り、対岸のサンタ・フェリチタ教会(Chiesa di Santa Felicità)を経由してピッティ宮殿(Palazzo Pitti)まで続いていて、長さは1kmもあるそうです。この回廊は1565年に建築家ヴァザーリが設計したものであるため、ヴァザーリの回廊と呼ばれています。メディチ家(Mèdici)の人々が居住していたピッティ宮殿から、執務室のあったヴェッキオ宮殿まで安全に行き来できるために作られたそうです。この回廊には多数の美術品が展示されていますが、残念ながら回廊は2017年から改装のために閉鎖されていて、訪問はできませんでした。公開を再開するのは2022年の予定だそうです。

ウフィッツィ美術館の展示室からポンテ・ヴェッキオを見ると、右手に回廊が美術館につながっているところが見えます。回廊部分の窓は四角く格子が付いていますが、回廊の裏(西、下流)側の窓はもっと小型の円形で、やはり格子が付いています。最初の写真の大きな窓も、裏側にありますが、これは、ヒットラーが1941年にフィレンツェを訪問する際に見晴らしをよくするために、イタリアの独裁者であったムッソリーニが作らせたものだそうです。

これはウフィツィ美術館の出口ですが装甲車と警官(カラビニエリ、l'Arma dei Carabinieri、国家治安警察隊のことで国防省の管轄で、そのほかに内務省が管轄する国家警察など、イタリアには5種類の警察があるそうです)が警備に当たっていました。イタリアは主要な駅、空港、観光地など、どこに行ってもカラビニエリが警備しているのが驚きでした。35年前の1986年に当時勤めていた会社の上司とともにチューリッヒからの帰り道にローマに1泊2日で寄り道したときには、バチカンの近くで、5-6人の少女スリ団(12歳くらいに見えるかわいい女の子のグループ)に2回も取り巻かれたり、タクシー運転手がこちらが指定したホテルではなく、同じ系列で宿泊費が半分くらいと推奨(騙そうと)するホテルに行くようにしつこく迫ったり、スペイン坂のところでへんなおじさんにつきまとわれたりと、4回もひやひやな目に遭ったため、二度と来ないでおこうと思ったのですが、今回はイタリア語を事前に片言程度までしゃべれるようにしたり、犯罪発生状況を十分に調べてから訪問したため、3週間の旅行期間中危ない目には一度も遭いませんでした。ナポリ、シチリアなどの治安に問題があると言われている場所には行かなかったことも一因とみられますが、それにしてもずいぶん安全になったと感心しました。

フィレンツェの中心となるドゥオモ(大聖堂、市内で一番重要な教会)ですが、フランスのカテドラルが多くの場合灰色一色であるのに対して、イタリアの教会は表面に大理石で美しく装飾が施されているのが大きな違いだと思いました。残念ながら、ドゥオモは入り口に長蛇の列ができていたため、入るのはあきらめました。

正面はドゥオモの鐘楼で、ジョットが設計したため、ジョットの鐘楼と呼ばれています。

ウフィツィ美術館の対岸の高台に見える公園(バルディーニ公園)から市内を見渡す写真が写せるかと思って行ってみましたが、残念ながらあまりいい写真は写せませんでした。ただ公園につながる道の途中で、ガリレオ(1564〜1642)が木星の衛星を発見したという家(上の写真)を偶然見つけました。左側の扉の左上にあるプレートには「1609年、望遠鏡の性能を飛躍的に向上させたガリレオ・ガリレイは、木星の「メディチ衛星」の発見につながる天体観測を実施しました」(NELL' ANNO 1609 GALILEO GALILEI PERFEZIONANDO L' USO DEL CANNOCCHIALE CONDUCEVA LE OSSERVAZIONI ASTRONOMICHE CHE LO AVREBBERO PORTATO ALLA SCOPERTA DEI "SATELLITI MIDICEI " DI GIOVE)と書かれていました。この建物で観測したとは書いてありませんが、こんな看板が掲げられていることから、この建物で観測されたと解釈しました。ガリレオは100本以上の望遠鏡を自作して、現存する2本は、ウフィツィ美術館に隣接するガリレオ博物館に展示されています。これらの望遠鏡で木星に4つ衛星があることを発見しました、ガリレオはこれらを「メディチ衛星」と呼びましたが、現在では「ガリレオ衛星」(4つの衛星の現在の正式名称は、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストです)と呼ばれているようですが、wikipediaによれば、2019年8月までに、木星には79個の衛星と3本の環が発見されているそうです。

この家の2軒隣にはガリレオがごく短期間住んでいた家(Casa di Galileo Galilei, Costa di San Giorgio 19) がありました(次の写真)。

向かって右側の扉の上に白く見える大理石のプレートには「ここに住んでいたガリレオはメディチ家のフェルディナント2世の力に服従するのをためらいませんでした」("QUI OVE ABITO GALILEO NON SDEGNO PIEGARSI ALLA POTENZA DEL GENIO LA MAESTA DI FERDINANDO II DEI MEDICI")と書かれていて、さらに写真は撮り損ねましたが、プレートの上の2階の壁にある丸窓のような部分にはガリレオの像が描かれているようです。

今回(2019年5月)の旅行中は食事はパニーニ(サンドイッチのようなもの)で済ますことが多かったのですが、一度だけ清水の舞台から飛び降りるつもりで、東京にも支店があるサバティーニ・フィレンツェでランチをしました。ベジタリアンでも対応可能ということなので入りましたが座ったのは入り口のすぐ前でした。

席から入り口を写したものですが、左側にある時計の文字盤には、「食卓では年はとらない」(A TAVOLA NON SI INVECCHIA)と書かれています。この意味はよく分かりませんが、食事は時間を忘れるほど楽しいものであるという感じかと思います。私は「旬の野菜のリゾット」(Risotto con verdure di stagione)、かみさんは「甲殻類入りのスパゲッティ」(Spaghetti Allo Scoglio、ムール貝が入っていて日本のスパゲッティ・ペスカトーレに近いと思いました)を食べましたがさすが本場の味という感じがしました。驚いたのは、アラカルトで注文すると両方の価格が11ユーロ(現在のレート126円/ユーロで換算すると約1,390円)と非常にリーズナブルだった点です。

そこでデザート(Dolci)のリストを見せてもらいましたが、「ビスコッティ・エ・ヴィンサント」(Biscotti e vinsanto)というものがあって説明を聞くとおいしそうだったので私はこれを注文しました。ビスコッティ(単数型はビスコット)はビスケットのことですが、フィレンツェが含まれるトスカーナ地方の伝統的なナッツ入り堅焼きビスケット、「カントゥチーニ (cantuccini) 」をヴィンサント・ワイン(南イタリア産の干しぶどうをもとにして作った、甘口でアルコール度の高い貴腐ワイン)につけて食べるものでした。ビスケットとワインは結構相性がいいと思いました。カントゥチーニは日本でも成城石井などのスーパーで売られているようです(商品名はCantuccini Toscani IGPでした、Toscaniは「トスカーナ地方の」という形容詞、IGPはイタリア特産品認証認定品という意味のようです)。wikipediaによると、「カントゥチーニは、・・・アーモンド風味の硬いビスコッティの一種。カントゥチ (cantucci) ともいう。中世にトスカーナ地方で誕生した伝統的な菓子で、ヴィンサント・ワインやシャッケートラ(Sciachetrà)といったデザート・ワインや、カフェ・ジェラートなどに浸し、柔らかくなったものを食べることが多い。噛んだときに「カリッ」といった軽やかな音が鳴るために、小さな歌という意味である cantocci が cantucci と変化したのが語源である」そうです。

かみさんは、イギリス風スープ(Zuppa inglese、ズッパ・イングレーゼ、英語ではEnglish soupというようです)というものを注文しました。ネットでズッパ・イングレーゼを検索すると、イチゴやクリームなんかが入ったパフェのような感じの絵が出てきますが、サバティーニ・フィレンツェのズッパ・イングレーゼはアイスクリームのような感じでした(上の写真)。最近(2021年)かみさんにどんな味だったのかと聞くと、もう忘れてしまったとのことでしたので、あまり印象に残るような味ではなかったようです。価格はビスコッティ・エ・ヴィンサントが8ユーロ(約1,000円)、イギリス風スープが10ユーロ(約1,260円)とやや高めでした。

フィレンツェは歩いて回るのに最適の街のようですが、東京都内で走っているようなミニバスが信じられないような細い道を走っているのも驚きでした。車が通りそうもないと思って安心して歩いていても、後ろにバスが近づいていたというようなことがありましたのでご注意ください(2021年2月28日)。

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