問題35 (食文化)日本の清酒生産量全体のうち、実に約(a. 40%)が、酒類原料用アルコールをもとにして造られてます。

『新編 日本酒のすべてがわかる「本」』(健友館、穂積忠彦著、1995年初版発行)を読むと、日本酒ほど消費者をばかにした商品はちょっとほかに考えられないということが分かります。一般消費者がコメから作られたと思って飲んでいる日本酒全体の約40%が、サトウキビの絞りかすを主原料とする酒類用アルコールから造られているそうです。

この本の294ページによれば、日本の酒類用アルコールの年間生産量は23万キロリットルで、国内酒類用アルコールメーカー(ほぼ大手焼酎メーカーと重なります)を保護するための関税障壁によって酒類用アルコールの直接輸入はほとんどないそうです。また直接輸出もほとんどないため、国内生産量と国内消費量はほぼ等しいことになります。国内生産量全体のうち8万キロリットルが清酒醸造家で消費されているそうです。8万キロリットルの酒類用アルコール(アルコール分95度)から生産できる清酒(アルコール分15度)は、51万キロリットルとなり(8*0.95/0.15=50.7)、これは、年間清酒消費量140万キロリットルの約4割(正確に計算すると36%)になるそうです。

原料用アルコールと無縁な酒類はごくわずか

さらに、あきれるのは、原料用アルコールとまったく無縁な日本の酒類はビールと本格焼酎(乙類焼酎の別称、甲類焼酎というのもあり、これは酒類用アルコールを水で薄めたものだそうです)、雑酒中の「発泡酒」と「その他の雑酒」だけだそうです(295ページ)。これだけおおっぴらに、名前と中身の違う商品も少ないのではないでしょうか。「サントリーオールド」をドイツに輸出しようとしたら、税関がウイスキーと認めてくれなかったとか、十勝地方で生産されるぶどうを全部使っても、一時大流行していた「十勝ワイン」の年間生産量を大きく下回る量のワインしか生産できない、などという昔週刊誌で読んだ記事を思い出しました。

石油からつくられているという説もある

『日本酒のすべてがわかる「本」』の297ページによれば、『怖しい食品1000種』(ナショナル出版、郡司篤孝著)、『本当の酒・うその酒』(亜紀書房、同じ著者)では、著者の郡司氏は、「飲料アルコールは石油からつくられている」と明言しているそうです。『日本酒のすべてがわかる「本」』の著者の穂積氏は、「これはまっ赤なウソである」と指摘しています。ところが、郡司氏の本が出てから、酒税を管轄している大蔵省が、基本通達で「(石油から合成された)合成アルコールは…酒類には使用しないこととする」と明記したそうです。郡司氏は、大蔵省の出身で、大蔵省ひいきである可能性もあり、この本を読んだだけでは、どちらが真相かは分からないようです。たとえ、合成アルコールでも、純度が高ければ、安全性には問題がないと思います。酒造メーカーも、安全性が保障され、しかも十分に安くて、さらに外部に知られないとすれば、使おうとしてもおかしくないと、個人的には思います。

原料と原産地の表示の必要性

このような、議論が起こる原因は、どこでとれた何を原料にしているかを表示しなくてもいい、現在の産業保護政策にあるといえましょう。メーカーが勝手なことができるような制度を作って、産業を保護すると、そのメーカーが手抜きをして、結局その産業が衰退するという例が、日本の清酒業界のようです。

この正反対の例がフランスワインでしょう。フランスワインは、「原産地呼称法」という法律によってラベルの表示が規制を受けています。この法律によって、Appellation Controleeという表示とともに、地域名をラベルに表記した場合には、中身はその地域で生産されたぶどうによって作られたワインでなければならないと定められています(普通ラベルの中央に生産者の名前、つまりワインの名前が書いてあり、その下に、例えば、ボルドーなら、Bordeaux, Appellation Bordeaux Controleeと表記されています)。この法律は、消費者にワインの中身が分かるために考え出されました。ところが、この法律が、非常に狭い地域で生産される高級ワインの品質を保障することになり、現在では、付加価値の高い高級ワインを世界中に輸出する際の重要な武器となっています。フランスのミネラルウォーターも規制が厳しく、加熱消毒したものは、ミネラルウォーター(l'eau minerale naturelle)とは呼べないことになっています。つまり、雑菌が入り込む恐れのあるような水源から採取された水は、ミネラルウォーターに値しないという考え方に基づいているようです。ヴィッテル (Vittel の鉱泉から取ったミネラルウォーター; フランスで最初の無炭酸ミネラルウォーター; 腎臓病・肝臓病・関節炎に効能があるとされる; 英国で 1909 年に商標登録、説明は研究社、リーダース・プラス英和辞典による)、ペリエ、エビアン、ボルビック、などのミネラルウォーターを世界中に輸出できるようになったのも、このような、厳しい品質基準があったことが大きなプラスになったと考えられます。

清酒についても正確な表示の必要性がやっと認識され、「特定名称の清酒の表示」が、1990年からスタートしました(同書332ページ)。ところが、この表示では、清酒を大きく高級酒と普通酒に分けて、高級酒はさらに、「本醸造、特別本醸造、純米、特別純米、吟醸、大吟醸、純米吟醸、純米大吟醸」と八つに細かく分類されています。こんなに細かく分けられたのでは、しろうとには何のことか、かえって分からなくなってしまいます。

米と米麹(こうじ)だけからできている清酒には「純米」という表記が付いている

ただ、この表示によって酒類用アルコールを使っているかどうかの区別ははっきりしたようです。要するに、酒類用アルコールを全く使っていない(とされている)清酒は、高級酒の八つの分類のうちの、「純米」という表示を含んだ四つの分類のみということになります。それ以外の清酒には、酒類用アルコールが含まれていることになります。(99年5月31日)。

(2013年5月8日追記:純米酒以外の清酒には本当の酒(つまり純米酒)がどのくらい含まれているのかという疑問をお持ちになった方は、問題88(食文化)もご参照ください。)

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