問題73(人権)の答え・・・「初公判後まで(c. 75)日間にわたって長期拘留が続いた」が正解です。

勾留(こうりゅう)とは裁判のために被疑者・被告人を強制的に警察の留置場に収容して拘禁する処分のことだそうです(余談になりますが、同じ読みの「拘留」の方は裁判で言い渡される30日未満の身柄拘束という刑罰のことだそうです)。新聞受けに全く違法性のないビラを投げ入れるだけで、住居侵入の罪に問われ、75日も勾留され、さらに、裁判で懲役6カ月を求刑されるというのでは、あらゆる種類のびらの投げ入れは不可能になります。

幸い、8カ月にも及んだ第一審の判決が12月16日に下され、東京地裁八王子支部の長谷川憲一裁判長は「住民のプライバシー侵害の程度は低く、ビラ入れが憲法で保障された政治的表現活動の一つとして民主主義社会の根幹をなすことを考えれば、刑事罰に値するほどの違法性はない」と述べ、3人の被告全員に無罪を言い渡しました。ただ、同じく『朝日新聞』12月23日付によれば、検察当局はこの判決を不服として、東京高裁に控訴する方針を固めたそうです。

また、17日の記事によれば、被告の一人で、身障者の介護員をしている高田幸美さんは、初公判での意見陳述で、勾留中の取り調べについて、「被疑事実を調べるというよりは、疲れさせ転向を強要するものだった」と説明したそうです。高田さんに対して、「二重人格のしたたか女」、「寄生虫」、「浮浪児」などという暴言を吐いた捜査員もいたそうです。反戦ビラを投げ入れた市民をいきなり逮捕して長期勾留し、密室で官憲がこういうことを言って脅すような国は、とても民主国家とは言えないと思います。

17日付の解説記事で、吉武祐記者は次のように述べています。

『裁判の中で、警視庁公安部〔引用者追記:思想犯捜査が専門で、秘密捜査が原則となっている、詳しくは問題28(警察)をご覧ください、以下同様〕が〔自衛隊または自衛隊員に対して〕被害届の提出を要請するなど、積極的な役割を果たしたことがわかった。イラク派遣の是非が盛んに論議されていた時期に、狙い打ちとも思える捜査が行われていた実態が浮き彫りになったといえる。・・・・・

また、判決も指摘するように、自衛隊や警察から〔市民団体に対する〕正式な抗議や警告などはなかった。いきなり逮捕に踏み切り、75日間にわたる勾留が続くなど異例な捜査だった。ビラには連絡先も明記してあり、証拠隠滅や逃亡のおそれがどこまであるか疑問だった。にもかかわらず、令状を出した裁判所の姿勢も問われよう。

一連の捜査は、市民社会を萎縮(いしゅく)させるに十分だ。公安警察の捜査は、再考を迫られよう』

同じく、17日付朝刊には、愛敬浩二・名古屋大学助教授(憲法学)の次のような話が引用されていました。

「判決を読むと、自衛隊派遣と前後して防衛庁と警察が一緒になって「派兵反対」のビラを狙い打ちにした構図が見えてくる。イラク派兵がこのような言論弾圧を必要とした事実は、記憶にとどめておいてよい」

この事件は、戦前の言論弾圧時代とほとんど同じことが、現在でも起こりうることを示したという点で、重要な意味を持つと思います。国民が政治への関心を失っている裏で、憲法改正のための準備や武器輸出三原則(国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの武器の輸出を認めないことなどを含む政策、詳しくは外務省のホームページ、http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jirai/sanngen.html などをご参照ください)の緩和など、軍国主義化の動きが着々と進められており、今回の事件もそのような流れの中の、一つの重要な転換点であった可能性があると思います。また、マスコミも朝日新聞以外は小さな扱いだったのは、お上に遠慮して、自主規制している印象を受けます。

警察も、不正経理によって私腹を肥やすだけでなく、埼玉県の「桶川ストーカー殺人事件(
被害者ご本人や家族の訴えを無視して警察が放置したストーカーに、女子大生猪野詩織さん(当時21歳)が1999年10月26日に刺殺された事件)」や、「捜査の怠慢」が原因であるという、神戸地裁の判決が2004年12月22日に下った「神戸・大学院生殺害事件(暴力団に突然暴行を受けた大学院生の浦中さんが、目の前の車の中に拉致されていると、血みどろになった友人が主張しているにもかかわらず、18人もの警察官が、「けんかだ」という暴力団員の言い分を うのみにして、車の中に監禁されている浦中さんを探そうともせず、現場を立ち去ったため、その後浦中さんが暴力団に殺害されたという2002年3月4日の事件)」など、庶民が本当に必要としているときには見て見ぬふりをし、おまけに、庶民が正当な政治活動をしようとすると、突然逮捕して、75日も勾留するというのですから、とても国民の味方とは言えないようです(2004年12月26日)。

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