「サメの脳みそ、ノミの心臓、オットセイの・・・」

『週刊読売』(2000年6月16日号)によると、官邸詰の首相番記者は、森喜郎首相のことをこう形容しているそうです(ほかの雑誌によると…の部分は「下半身」です)。さらに、首相執務室は「水槽」、側近の中川秀直自民党幹事長代理と町村信孝首相補佐官は「小判ザメ」、青木官房長官は「オットセイの調教師」と呼ばれ、首相が夜の会合にいくつも顔を出したときには「サメの回遊」と言われるそうです。朝日新聞と毎日新聞が朝刊1面トップで伝えた「神の国」発言を2面の3段記事にした読売新聞でさえ、このように突き放した報道をするようになったところをみると、森首相はほとんどのマスコミから見放されたようです。残っている味方は、「神の国」発言をベタ扱い(前の記事の最後に続けて、見出しを1段に収め、その後に記事を続ける方式で、最も重要度の低い記事の掲載方式)にして、「宗教教育の重要性強調」という見出しを付けて、おまけに社説で、この発言を擁護して、マスコミを批判した産経新聞だけになったようです。

森喜郎氏ほど怪しげな首相は、1989年のパリの「アルシュ・サミット」に参加したときに、「16歳の恋人がいて、髪を染めている」と世界的に有名になり、「3本指」発言の後に参院選大敗の責任をとって辞任した宇野宗佑氏以来のような気がします。最近の新聞・雑誌の報道をみると、次々とぼろが出てきているようですので、週刊誌などはあまり読まないという方のために、保存版として森首相についての記事を要約してみました。

(1)問題発言

森首相は就任後、内閣総理大臣は日本国憲法第99条で憲法を尊重・擁護する義務があると定められていることを忘れているとしか考えられないような発言を繰り返しているようですので、まずこれをおさらいしておきます。発言は『朝日新聞』2000年6月5日付からの引用です。

・「教育勅語には非常に悪いところもあったし、とてもいいところもあったはずで、全部だめだったというのはよくない」(5月8日、桜内義雄元衆議院議長の後援会総会でのあいさつ)

・「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知していただく、その思いで私たちが活動して30年になった」、「われわれ国会議員の会も神社本庁のご指導をいただきながら、ほんとうに人間社会に何が一番大事なのかという原点をしっかり皆さんに把握していただく、そうした政治活動をしていかなければならない」(5月15日、神道政治連盟国会議員懇談会の結成30周年記念祝賀会でのあいさつ)

・「(共産党は)天皇制は認めないでしょうし、自衛隊は解散でしょう。日米安保も容認しないと言っている。そういう政党とどうやって日本の安全を、日本の国体を守ることをできるんだろうか」(6月3日、自民党奈良県連の演説会での講演)

森首相の発言は時代錯誤だとか憲法を無視しているとか批判されていますが、これらの発言は「サメの脳みそ」のために、つい本音が出てしまったというのが実情なのではないのでしょうか。本音であるため、発言を撤回するのは潔し(いさぎよし)としないわけです。「普通の脳みそ」の自民党議員は、たとえ森首相の発言に大賛成でも、ぐっとこらえて発言を控えているのかも知れません。

森氏は首相になる前から「失言癖」があったそうですが、『週刊現代』2000年6月3日号には、つぎのような発言も載っていました。

・「大阪は゛たんつぼ゛と言われ、金もうけばかり考える実に汚い街になった」(88年4月、京都市内のパーティで)

・「(農業団体の有力者が対立候補にいて)私が『立候補の挨拶に参りました』と行くと農作業をしている農家の方が全部、家に入っていきました。なんかエイズが来たように思われちゃってね」(2000年1月、福井県内の後援会で)

(2)売春検挙歴問題

森首相がまだ20歳で早大生だった昭和33年(1958年)2月17日に売春等取締条例(売春防止法の前身)違反で逮捕された前歴があることを最初に報道したのは『噂の真相』2000年6月号でした(5月10日発売、正式には真相の真という字が旧字体の『眞』になっていますが、新字体で表記させていただきます)でした(最初は売春等取締条例違反と報道されていましたが、警視庁が保管している森首相の「前歴カード」には、罪名としてその年の4月1日に施行された売春防止法違反が挙げられていることが同誌の7月号に載っています)。

『噂の真相』という雑誌は、いかがわしげな名前にもかかわらず、99年5月号には、則定衛(のりさだ・まもる)元東京高検検事長(これは検察庁では検事総長に次いで2番目に高い地位で、則定氏は次期検事総長が確実視されていたそうです)の女性スキャンダル(愛人を出張に同行させていた)を報道して、同氏が失脚する原因となった雑誌で、この記事が掲載されることを、朝日新聞が1面トップで取り上げたという実績のある雑誌です。また、2000年6月7日には、森首相の記事について抗議に訪れた2人組の右翼に、編集長、副編集長をはじめ、多数のスタッフが襲われるという事件が発生しました。編集長は右大腿部を3針、額を6針縫うという全治2週間の負傷だったそうです(詳しくは、同誌のホームページ、http://www.uwashin.com/ をご覧ください。生々しい写真も載っています)。つまり、同誌は命がけで言論の自由を守っていることになります。

同誌によれば、「・・・2月17日から18日にかけて、新宿や浅草などの青線、白線業者を売春等取締条例違反などで一斉摘発し、業者や女、客ら20人近くを検挙したんだが、その客の中に、当時まだ早稲田の学生だった森、そう今の総理大臣がいたんだよ」と警視庁OBが語ったそうです。

売春防止法施行以前には、半ば公認されていた売春地帯(赤線地帯、青線地帯)と非公認のもぐり売春(白線)があったそうです。世界大百科事典(平凡社)によれば、「戦後,占領軍の指示によって公娼制は廃止されたが,日本政府は直ちに特殊飲食店と名称を変えて存続を図り,それらの営業許可区域を赤線または青線で指定した。特殊飲食店の営業が許可された区域を特飲街,赤線地帯などといった」そうです。また、「青線とは飲食店街をふくむ盛り場の区分だが,キャバレー,バーなどでもホステスの即席恋愛がおこなわれることもあった」。「58年に売春防止法が施行されて全国で4万に近い特殊飲食店と12万人ほどの従業婦がなくなり,赤線廃止とともに青線の名称も消えた」そうです。

それまでは合法行為であった「売春」が非合法化されるというので、駆け込み的に体験したいと思ったのかも知れません。森首相の自伝『あなたに教えられ走り続けます』(引用者の疑問:そういう人がなんで「神の国であるぞということを国民のみなさんにしっかりと承知していただく」などと言えるのでしょうか。あるいは、ここで言う「あなた」とは「天皇」のことなのかもしれません)には、そのころ森氏は、早稲田大学商学部にスポーツ枠でコネ入学し(引用者注:スポーツ枠で入学した方の名誉のために付け加えますが、スポーツ枠で入学したのではなく、スポーツ枠を悪用してコネ入学したようです)、ラグビー部に入部したものの胃潰瘍を患って退部、雄弁会に入るまでは酒浸りの日々を送っていたと書いてあるそうです。(自民党のホームページの総理の経歴を見ると、「昭和31年早稲田大学商学部入学、体育会ラグビー部に入部するもケガで挫折」と書いてあります。胃潰瘍とケガが重なったのでしょうか。けっこういい加減な気がします。ラグビーは単なるコネ入学のための見せかけだったため、続ける必要がなかったのではないでしょうか)。

刑事訴訟ではなく民事訴訟にしたわけ

『週刊現代』2000年5月27日号(5月15日発売)などが相次いで森首相の売春検挙歴疑惑を報道したこともあって、5月17日に森首相は『噂の真相』を提訴しました。この訴状は「悪意による暴言や虚偽の事実の羅列は真実らしさのカケラもない」と主張し、記事中の「東京佐川の渡辺広康元社長の検事証書の中で、森が竹下へのホメ殺しをやめさせるよう働きかけていたことが明るみに出た」、「泉井純一からのヤミ献金疑惑でも、泉井自身が国会証人喚問で森に1,000万円の資金提供していたことを明らかにした」との下りまで「事実無根」と主張したそうです。これらは、検事調書や国会議事録を見れば分かる話ですから、後から恥をかくこともいとわずに、やみくもに提訴したと言えるのではないでしょうか。

話は脱線しますが、政治家、お役人、大企業の幹部が自分に都合の悪いことがばれて、それに対して「事実無根」と言うときは、大体「おっしゃる通りです」と言っていると思って間違いありません。本当に間違っていると思っているときには、具体的な点について反論するはずです。ところが、どの点からみても反論できないときには、「事実無根」と言うしかないわけです。同じような性格を持った用例に、「抜本的改革」ということばがあります。まじめに考える人なら、たとえどんな小さい点についてでも具体的に「この点をこうする」と言うはずです。具体策がない場合に、使われることばが「抜本的改革」や「抜本的改善」、もっとやる気のない場合には「抜本策の検討」となりますが、その意味は、何もしないということです。

『噂の真相』7月号には、大手紙の総理番記者氏の次のような発言が引用されています。

「…それでもさすがに刑事告訴まではできなかった。刑事告訴すれば、それこそ問題の犯歴から息子のクスリ疑惑(引用者注:一人息子の森佑喜氏が、愛人の I 嬢とともにコカインを使用したことを、I 嬢が『噂の真相』誌に暴露した件)まですべて、捜査当局に徹底的に調べられますからね。だから民事にしたんです」

さらに、5月17日に司法記者クラブで提訴会見を行った、森首相の訴訟代理人である山本栄則弁護士は、「犯歴データの確認は?」という質問に対して、「これまでの私の弁護士経験から照らして、40年以上も前の犯歴が警察に残っているわけがない」と言い切ったそうです。ところが、この会見の5日前に、林則清警察庁刑事局長は、衆院法務委員会での民主党の北村哲男議員の質問に対する答弁の中で「逮捕歴は各個人に対して、死亡時まで犯歴紹介システムに登録してある」ことを認めたそうです。犯歴が一生付いて回ることくらい、子どもでも分かると思いますが、日弁連の副会長まで歴任した山本栄則弁護士がこのような発言をしたのは、明らかに意図的に「ウソ」をついているためでしょう。ただ、警視庁のベテラン捜査員の話では、4月20日ごろまでは端末で見ることができた、森首相の犯歴は現在では照会できない状態になっているそうです。これは、上層部の指示でアクセスが「ブロック」されているためだそうです。森首相が「ブロック」することを指示した可能性もあるのではないでしょうか。

また、ある司法担当記者は次のように指摘しているそうです。

「東京地検特捜部が手がけ、不完全燃焼に終わった日本ハイカ事件では、森の子飼いと言われる釜本邦茂の親族会社に総額50億円ものハイウェイカードが流れ、代金の半分に当たる27億円が闇(やみ)に消えたんです。この事件の裏で暗躍していたのが、森とは早大雄弁会からの親友の鶴田耕一なる人物。また日債銀株を巡るインサイダー取引疑惑など、特捜マターにも頻繁に顔を出す政治家と言えますね」

(3)「神の国」ではなく「仏の国」だったという話

森政権はその誕生の経緯からして、憲法に違反しているようです。『FRIDAY(フライデー)』6月2日号に掲載された小渕氏の写真は、4月2日に 同氏が ICU(集中治療室)に移された直後の午後7時ころに撮影されたとみられています。この写真から、小渕氏はほとんど口がきけない状態だったことが十分に推察できます。ところが、青木官房長官はちょうどこの時刻ころに小渕首相に面会して、「有珠山噴火対策など一刻もゆるがせにできないので、検査の結果によっては青木官房長官が臨時代理の任に当たるように」と小渕前首相から指示を受けたと4月3日の会見で述べています。

上記発言を行ったとされているころの小渕元首相のICUでの写真(FRIDAY 2000年6月2日付に載ったもの。ただし、6月9日号に載った2日付の記事の紹介記事の写真をコピーさせていたたいたため、縦に折り目の線が入っています)。

『週刊現代』6月3日号によれば、順天堂医院関係者はつぎのように言っているそうです。

「青木氏の話だと、あの写真を撮られたときと前後して、小渕氏に会い、首相臨時代理を任されたことになりますが、ウソもいいところです。5月14日の記者会見で順天堂医院の水野美邦教授が説明した通り、小渕氏の意識は、JCS2(今がいつで、自分がどこにいるかなどの認識に障害がある)からJCS3(自分の名前や生年月日が言えない)の状態でした。つまりほとんど口はきけず、問いかけに対して『うん』などと頷(うなず)くくらいがやっと。意味のあることを口にできたはずがない」

さらに「指名を受けた」として青木氏が首相臨時代理となり、森喜朗幹事長(当時)、野中広務幹事長代理(同)、村上正邦参院議員会長、亀井静香政調会長らと5人で密室の中で談合して森内閣を作ったと、民主党の仙谷由人企画局長は断言しているそうです。仙谷氏はさらに、「憲法第70条では『内閣総理大臣が欠けたとき(中略)内閣は総辞職しなければならない』と定められています。だから、本来小渕内閣も総辞職すべきでしたが、そのかわりに゛5人組゛が勝手に森内閣を生み出した。明らかに憲法に違反しています」と述べているそうです。どこかの新聞には「これは一種のクーデターである」という見方が載っていたと思いましたが出所は忘れました。これに対して、民主党の菅直人政調会長らが、青木官房長官を有印公文書偽造、同行使、官名詐称で東京地検に刑事告訴することになったのはご存じかと思います。

ところが、この5者会談の決定に関係していたもう一人の実力者がいたという話が、『噂の真相』7月号には載っていました。同誌に掲載されているある自民党関係者の話を引用させていただきます。

「小渕が倒れた翌日の4月2日夜、赤坂プリンスホテルで野中、青木、森らによる二度目の5者会談が開かれているんですが、その直前、野中は公明党の神崎武法代表を通じて、池田大作に『後継は森さんでいこうと思っているが、どうか』と内々で打診しているんです。で、5者会談の途中に神崎から池田の了承を伝える電話が来て、森新首相がきまったんです」、「そもそも自民党の総裁選出で外部の了解を取りつけるということ自体前代未聞なんです。それくらい、池田と学会が現政権を牛耳っているということですよ。6月25日投票の総選挙についても、事実上の解散権を行使したのは、内閣総理大臣でも自民党幹事長でもなく、池田ですからね。そういう意味では現在、この国のキングメーカーは竹下登でも野中広務でもなく、池田大作ですよ」

『噂の真相』によれば、創価学会がこのように自民党を支配するようになったのは、第一に総額10兆円とも言われる資金量と、第二にその集票力だそうです。学会の総世帯数は公称812万世帯とされていますが、活発な活動をしているのは約60万世帯で、約200万人(このグループは学会内隠語で「K」と呼ばれているそうです)。これに、「K」が集める学会員以外などの票を加えると集票力は、参院選で「K」の3.5―4倍、衆院選で2.5倍と言われているそうです。「K」の200万票については『〇〇候補に投票せよ』という指令が、わずか24時間で末端まで届くそうです。どうもこのシステムが、あと一歩というときに大きな力を発揮するようです。

創価学会の現役幹部の話では、そのかわり「自民党の各派閥、議員ごとにどの程度池田先生に忠誠心があるかについての゛査定表゛ができている」ようです。その結果、自民党中堅議員によると「いまや自民党議員の8―9割は、学会票を欲しいと思っており、創価学会批判は完全にタブーになっている。・・・今は『物言えば唇寒し』の状態だからね、これは本当に怖いことだ」そうです(2000年6月19日)。

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