サルモネラ菌による食中毒事件にみる米食品医薬品局(FDA)のウソ

最初は特定の種類のトマト、次はメキシコ料理に使われる唐辛子が疑われる

米国で医薬品の安全性と有効性を保証したり、食品、食品添加物、化粧品の安全と適切な表示を保証している機関であり、日本で言えば、厚生労働省、農林水産省の規制機能を兼ねているため、米国民の健康を保つ最も重要な機関の一つとなっている、食品医薬品局(FDA)は、サルモネラ菌による食中毒によって4月以来1000人以上の感染者が発生したため、2008年6月7日に、赤ローマ(red Roma)トマト、赤プラム(red plum)トマト、赤丸(red round)トマトを生では食べないように警告を出しました。

ところが、7月17日付のFDAの最新情報(Update、http://www.fda.gov/oc/opacom/hottopics/tomatoes.html#retailers )では、「消費者は赤ローマ(red Roma)トマト、赤プラム(red plum)トマト、赤丸(red round)トマトを含むすべての種類の生のトマトを食べられます」と6月7日の警告を全面否定し、今度は、メキシコ料理でよく使われるハラペニョ(メキシコ唐辛子、jalapeño)とシラノ唐辛子(青唐辛子、serrano pepper)を避けるように警告しました。

なぜか肉には言及なし

このFDAの警告には二つの疑問点があります。第一は、感染者の数が1000人と、ほかの資料から推定される感染者数に比べて少な過ぎるという点、第二に、原因である可能性が一番高い肉のことが忘れられているという点です。

この疑問に関係して、問題77(健康)でご紹介した、『危険食品読本』から関係する部分(36―37ページ)をコピーさせていただきます。

・・・米国の食品安全基準は、食の安全性よりも企業利益優先で決められている・・・日本人ではとうてい理解できないほど企業の利益を優先させているのだ。/たとえば、全国の学校給食でおこなわれているサルモネラ菌の検査にしても、精肉業界が負担している検査費用を削減したいために、業界はブッシュ政権に圧力をかけて挽肉(ひきにく)の検査の廃止に持って行った。しかし、それ以前に、農務省が実施した2000トン以上の給食用挽肉がサルモネラ菌に汚染されていることが発覚した経緯もあり、この措置に米国消費者団体は猛反発。サルモネラ菌まみれの挽肉を出荷した企業に対する懲罰決議案を下院に提出したところ、ブッシュ政権はこれを廃案にしてしまった。/つまり、現在のところ米国ではサルモネラ菌に侵された挽肉を売っても、なんら罪に問われない。それどころか、そんな汚染肉でさえ農務省の認定ラベル付きで販売できるのだ。これにより、アメリカでは年間100万人以上の人がサルモネラ菌による食中毒を起こし、年間500人以上の死亡者を出している(日本の場合は年平均2人程度)

以上が引用ですが、1000人以上というFDAが言う食中毒の被害者数は、年間100万人以上という被害者数を考えれば、全く問題にならない数ですが、この辺りがまずFDAのデータの正しさ(信憑性)が疑われるところです。食中毒の対策が必要となったことから考えると、実際の被害者は平年よりも多い可能性もあると考えられます。

さらに、サルモネラ菌は人や動物の消化管に常に存在する細菌で、動物が発生源であるのは明白です。しかも、感染していることが分かっていても検査なしで販売できる食肉に、サルモネラ菌が含まれているのは明白であるにもかかわらず、原因として肉への言及がないのはいかにも不自然な印象を与えます。

食肉産業の圧力の影響である可能性が高い

このようないい加減な対応が行われている原因は、『危険食品読本』にも指摘されているように、やはり「企業利益優先」の考え方ではないかと思います。食肉牛のトレーサビリティーがないため、年齢が分からないにもかかわらず、月齢20カ月以下に限ることが可能と言ったり、特定危険部位を除去する体制ができていないにもかかわらず、除去すると言って、ブッシュ政権に圧力をかけて、日本や韓国に輸出できるほど、米国の食肉産業の政治力は大きいようです。巨大な食肉産業の利益のためなら、国民の健康は無視されても仕方がないという、ブッシュ政権の本音がFDAのサルモネラ菌食中毒大量発生への対応に表れているのではないかと思います。

このことは、非営利の消費者組織であるコンスーマーズ・ユニオン(Consumers Union)が1936年から発行しているアメリカ合衆国の月刊誌コンシューマー・レポート (Consumer Reports) のweb版の警告、「Protect yourself from foodborne illness (食品が原因となった病気から自らを守りなさい)」(2006年12月付)との大きな違いからも、十分に推定できます。この警告の一部を下に翻訳して、その下に本文をコピーさせていただきました。

新鮮にみえる食物が安全であるとは限りません。これは、食中毒を引き起こす微生物と腐敗を引き起こす微生物は異なるためです。生の肉、魚、卵は汚染されているものと想定して、注意深く取り扱わなければなりません。買い物のときには、肉汁がほかの食品に付かないように、肉はほかのものと別のレジ袋に入れて(冷蔵庫にしまうときにも同じようにして)ください。また、細菌の繁殖を最低限に抑えるために、低い温度の場所に保管してください。買い物のときには、冷蔵されている食品は最後に選ぶようにして、冷蔵されているものは一緒の袋に入れるようにしましょう。1時間以上室温にさらされる場合には、クーラーに入れておくようにしましょう。

Foods that appear fresh aren't necessarily safe. That's because the microorganisms that cause food poisoning are different from those that cause spoilage. Assume that all raw meat, fish, and eggs are contaminated, and handle them carefully. When shopping, place meat in separate plastic bags (and store it that way in the refrigerator) to keep its juices away from other foods. And minimize bacterial growth by keeping temperatures down: Choose cold foods last and bag them together; if they'll be unrefrigerated longer than an hour, pack them in a cooler.

コンシューマー・レポート (Consumer Reports)でこれだけはっきり指摘されているにもかかわらず、FDAが見落とすということは考えられません。従って、FDAの警告は、恐らく、食肉業界や、食肉業界の言いなりになっているブッシュ大統領の意向を受けて、最も可能性の高い原因を意図的に無視したと考えられます。そのとばっちりを受けたのが、トマトや唐辛子を生産している農家です。『毎日新聞』(2008年7月8日付)によれば、「FDAの調査でトマトからサルモネラ菌は発見されなかった」にもかかわらず、需要減退で「トマト関連産業の『被害』は数億ドル(数百億円)」(米メディア)とされるほか、「トマトの生産者らは、出荷の見送りや値崩れで「損失が膨らんだ」と怒りを爆発させている」そうです。

日本でも似たような事件が

この事件で思い出されるのが、96年に大阪府堺市などで発生した病原性大腸菌O157の集団感染です。あのときには、水耕栽培で最も汚染されにくいようにみられる「かいわれ大根」が原因とされ、かいわれ大根を生産していた農家に大打撃を与えました。その後、かいわれ大根からは病原菌は発見されませんでした。これも、政治力の強い、食肉、卵、魚などの業界の圧力で、市場規模が小さい、かいわれ大根が犠牲になった(スケープゴートとなった、無関係の人や物を身代わりして責任をとらせること)のではないかと思います。

そんなわけで、食中毒の原因が野菜であるとお役所が発表した場合は、ウソだと思った方がいいと思います。さらに、付け加えると、ベジタリアンになって、野菜だけを食べれば、食中毒のリスクははるかに低く抑えられると思います(2008年7月27日)。

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