問題93(健康)で触れた「乳がん死亡率」について、山梨医科大学名誉教授・佐藤章夫様がメールでご説明下さいました

問題93(健康)で取り上げた『乳がんと牛乳・・・がん細胞はなぜ消えたのか』(径(こみち)書房刊)を翻訳された、山梨医科大学名誉教授の佐藤章夫(さとう あきお)様にメールで西欧諸国の乳がん死亡率について2013年8月27日にお尋ねしたところ、その日のうちにお返事をいただくことができましたので、先生のお許しを得てメールを転載させていただきます((1)佐藤先生から2013年8月27日にいただいたメール)。お返事は私のメールに上書きされたものでしたので、先生の書かれた部分を緑色で、私のメールに含まれていた部分は黒字で表示して区別しました。

私がお尋ねしたのは、西欧諸国における乳がんの死亡率が10人に1人と書かれている(112―113ページ)点についてでした。この点について、先生は「訳は間違っていないと思いますが、原文に混同があるようです。中国の乳がん死亡率が10,000人に1人という数字は納得できます。ただし、プラ ント教授が西欧諸国で10人に1人とおっしゃっているのは死亡率ではなく乳がんの生涯リスクのことだと思います。つまり、西洋の女性は10人に1人が乳がんになると い うことです。」と指摘されました。

先生のご指摘に基づいて、中国の1万人に1人という死亡率に対応する、欧米諸国の乳がんの死亡率を調べてみました。「国立がん研究センターがん対策情報センター」の「がん情報サービス」といホームページに載っていた各国のがん死亡率のデータから欧米諸国の乳がん死亡率は10万人当たり30人程度であることが分かりましたので、このデータをご紹介します。ただ、中国のデータは年齢調整前であるのに対して、欧米諸国のデータは年齢調整後であるという差が残ります。また、「公益財団法人 がん研究振興財団」による日本人がん罹患リスク、死亡リスクのデータをご紹介します((2)欧米諸国の乳がん死亡率は人口10万人当たり年間30人程度)。

また、問題93(健康)の答えで関係している部分を書き直し、どのように書き直したかを、(3)問題93(健康)の答えの訂正に示しました。

佐藤章夫先生、ご多忙中にもかかわらず、一読者の質問に、ご丁寧にお答えいただいいてありがとうございました。お陰様でホームページの間違いを訂正することができました(2013年8月29日)。


(1)佐藤先生から2013年8月27日にいただいたメール

(佐藤先生)・・・拙訳を丁寧かつ適切にお読みくださいましてありがとうございます。

(私のメール)「乳がんと牛乳」は大変驚きに満ちた本で、精読して、WEB上のクイズ(問題93(健康))を作り公開しました。著作権上問題がないと信じておりますが、問題があれば訂正させていただきますので、ご指摘いただければと思います。・・・・(一部省略)

(佐藤先生)・・・私は、牛乳・乳製品は骨粗鬆症の予防に役立たないと考えていますが、役立つと お考えの方も大勢いるということをご承知おきください。

(私のメール)・・・「乳がんと牛乳」の112-113ページに「中国全体の乳がん死亡率は1万人にたった1人だったのである。この死亡率は多くの西欧諸国における10人に1人という数字にくらべてきわめて低いものであった。」と書かれています。



一方、「乳がんと牛乳」の112ページの乳がん罹患率の国際比較という図(上にコピーしました)に載っている、アメリカ、イギリス、デンマークの例では、これらの国の年齢調整罹患率は人口10万人当たり80人-90人程度に見えます。
仮に、これら3カ国が、プラント教授が言及されている「西欧諸国」と同程度とすれば、上記本文中の(年齢調整前の)死亡率(10人に1人、つまり、10万人に1万人)と矛盾しないのでしょうか。

(佐藤先生)・・・この部分の原文は次のようになっています。

What sturuck me the first time I looked through the atlas was the amazingly low rate of breast cancer throughout China. The background rate on the map is one cancer death in 10,000 women, which is very much lower than rates in the West which, as I already mentioned, approaches 1 in 10 women in many western countries.

訳は間違っていないと思いますが、原文に混同があるようです。中国の乳がん死亡率が10,000人に1人という数字は納得できます。ただし、プラ ント教授が西欧諸国で 10人に1人とおっしゃっているのは死亡率ではなく乳がんの生涯リスクのことだと思います。つまり、西洋の女性は10人に1人が乳がんになると い うことです。


(私のメール)・・・つまり、年齢調整済罹患率よりも年齢調整前死亡率が100倍以上も大きいということはあり得るのでしょうか。ちょっと考えると、罹患率よりも死亡率の方が低い値となるべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。

(佐藤先生)・・・
乳がんの死亡率は罹患率のだいたい5分の1ぐらいだと考えられます。

(私のメール)・・・ また、乳がんの死亡率という言葉を、年間死亡者全体に占める乳がんの死亡者の比率という意味で使うことはないのでしょうか。

(佐藤先生)・・・死因別死亡率は、ある病気で死亡した人の数を一定の人口当たりで表わしたものです。乳がんですと、一般に、年間の乳がん死亡者数を人口10万人当 たりで表わします。年間死亡者全体に占める乳がんの死亡者の比率は、全死亡に対する乳がんの死亡割合ともいうべきでしょう。


佐藤章夫
(佐藤先生のウェブサイト「生活習慣病を予防する食生活」
http://www.eps1.comlink.ne.jp/~mayus/


(2)欧米諸国の乳がん死亡率は人口10万人当たり年間30人程度

がんになったり(罹患したり)、がんで死亡する人の割合を示すデータには、年間の罹患者数/死亡者数を人口10万人当たりで表した、罹患率/死亡率のほかに、ある年齢からある年齢まで(年齢階層)の間や、一生の間(生涯)に罹患/死亡する率を表す罹患リスク/死亡リスク(パーセント表示)というデータがあります。先生のご説明によれば、プラント教授は、中国で1年間に人口1万人当たりで乳がんで死ぬ女性の数がわずか1人(10万人当たりでは10人)であるという乳がんによる(年間)死亡率の値を、欧米諸国の女性が一生のうちに乳がんにかかる比率、10人に1人(約10%)という生涯リスクの値と比較した可能性が高いようです。

そこで、独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センターの「がん情報サービス」の中の「乳がん―WHO死亡統計データベースより(1960-2000)」(http://ganjoho.jp/professional/statistics/digest/digest12.html )というホームページに載っていた「乳がん死亡率」というグラフをみると、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアは人口10万人当たり年齢調整後で大体30人程度であることが分かります(グラフは対数表示です)。そのため、「欧米諸国の乳がんの死亡率」は人口10万人当たり年齢調整後で大体30人程度と推定できます。これから、中国の乳がんによる死亡率(10万人当たり年間10人)は、欧米諸国の同30人程度の3分の1程度であることが分かります。

日本の乳がんの死亡率は1960年頃には人口10万人当たり年間5人程度でしたが、2000年には同10人程度になりましたので、40年間で2倍になったことになります。日本人が欧米風の食生活を続ければ、この比率は欧米並みの30人程度になると推定できます。一方、欧米諸国については、水準は高いものの、低下傾向にあるようです。

女性乳がん年齢調整死亡率(昭和60年モデル人口で補正、人口10万対)


5か国における40歳以上年齢階級別女性乳がん死亡率(人口10万対)

注:国別、年齢階層別に表示した死亡率で、一番上の線が85歳以上という年齢階層についてのデータ、次が80歳から84歳の年齢階層のデータなどとなっているようです。

下の二つの表は、「公益財団法人 がん研究振興財団」による日本の年齢階層別のがんの罹患、死亡リスクのデータ( http://www.fpcr.or.jp/pdf/statistics/fig09.pdf )の抜粋です。これによれば、生涯のうちに、女性全体の6.2%が乳がんに、男性全体のやはり6.2%が前立腺がんにかかるようです。同様に、生涯のうちに(全年齢階層中)、男女とも1.4%の人が、乳がんまたは前立腺がんで死亡するようです。乳がんと前立腺がんの生涯罹患率リスクと死亡リスクがともに等しいというのは、二つの病気の共通性が関係しているのかもしれないと思いました。

二つの表には、全種類のがんの罹患・死亡リスクも載っていますが、これによれば、男性全体の53.5%、女性全体の40.5%が一生のうちにがんにかかり、男性全体の26.1%、女性全体の15.9%ががんで死亡することが分かります。

また、最後の「主要死因別死亡率(人口10万人対)の長期推移(~2012年)」というグラフに示されているように、がん(悪性新生物)の(年間)死亡率は、1949年には人口10万人当たり70人程度でしたが、2009年には290人程度となりましたので、60年間で4倍強となりました。年間増加率は2.4%程度ですが、この間低下することなく、ほぼ一直線で上昇しているところが不気味です。

年齢階層別罹患リスク(2005年、罹患・死亡データに基づく)

がんの種類 性別 0-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 生涯
全がん 男性 0.9 2.4 7.3 19.1 37.0 53.5
女性 1.9 5.0 9.5 16.1 25.2 40.5
乳がん 女性 0.4 1.7 3.0 4.3 5.3 6.2
前立腺がん 男性 0.0 0.0 0.2 1.6 4.2 6.2

単位:%(当該年齢階層/性別の総人口に対する、その年齢階層/性別の中でがんを罹患する人の比率。階層ごとに総人口に差があり、80歳以上のデータが表示されていないために、表示した各年齢階層の罹患率を合計しても、生涯の罹患率とは一致しません。)


年齢階層別死亡リスク(2009年死亡データに基づく)

がんの種類 性別 0-39歳 40-49歳 50-59歳 60-69歳 70-79歳 生涯
全がん 男性 0.2 0.6 2.4 7.2 16.2 26.1
女性 0.2 0.7 2.0 4.4 8.8 15.9
乳がん 女性 0.0 0.2 0.5 0.8 1.1 1.4
前立腺がん 男性 0.0 0.0 0.0 0.1 0.5 1.4


[この図は社会実情データ図録/Honkawa Data Tribune ( http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2080.html ) からコピーさせていただきました。]


(3)問題93(健康)の答えの訂正

先生のご指摘に基づいて、問題93(健康)の答えの「中国の乳がんによる死亡率は西欧諸国の1000分の1にすぎない」という節を訂正させていただきました。訂正前と訂正後の文章を下に示しました。

訂正前(削除した部分に取り消し線を引き、赤字にしました)

中国の乳がんによる死亡率は西欧諸国の1000分の1にすぎない

プラント教授が牛乳の発がん性を発見することになったのは、教授自身が乳がんにかかり、自らの科学的知識に基づいて、治療しようとしたことがきっかけでした。乳がんと牛乳の関係に着目するようになったのは、乳がんになる数年前に中国人の仕事仲間からもらった「中華人民共和国におけるがん死亡率図譜」でした。この図譜によれは、中国全体の乳がん死亡率は1万人当たり1人と、多くの西欧諸国における10人当たり1人の1000分の1に過ぎませんでした。欧米諸国は中国に比べて高齢者の比率が高いことを考慮しても、大きな開きが残るそうです。残念ながら、年齢別人口構成の差を考慮した「年齢調整死亡率」の値は載っていませんでした。また、乳がんの罹患率(発生率)は、中国の啓東地方の女性では10万人当たり11人で、都市(上海と天津)では、啓東地方の2倍、都市化がさらに進んでいる香港では3倍(10万人当たり34人)となっているそうです(113ページ)。


訂正後(追加した部分をピンク色で表示しました)

中国の乳がんによる死亡率は西欧諸国の3分の1にすぎない

プラント教授が牛乳の発がん性を発見することになったのは、教授自身が乳がんにかかり、自らの科学的知識に基づいて、治療しようとしたことがきっかけでした。乳がんと牛乳の関係に着目するようになったのは、乳がんになる数年前に中国人の仕事仲間からもらった「中華人民共和国におけるがん死亡率図譜」でした。この図譜によれは、中国全体の乳がん死亡率は1万人当たり1人(10万人当たりでは10人)と、多くの西欧諸国の水準を大きく下回るものでした。独立行政法人 国立がん研究センターがん対策情報センターの「がん情報サービス」の中の「乳がん―WHO死亡統計データベースより(1960-2000)」(http://ganjoho.jp/professional/statistics/digest/digest12.html )というホームページに載っていた「乳がん死亡率」というグラフから「欧米諸国の乳がんの死亡率」は、年齢調整後で人口10万人当たり大体30人程度であることが分かります。つまり中国の乳がん死亡率は「西欧諸国の水準」の3分の1程度に過ぎませんでした。欧米諸国は中国に比べて高齢者の比率が高いことを考慮しても、大きな開きが残るそうです。残念ながら、年齢別人口構成の差を考慮した中国の「年齢調整死亡率」の値は載っていませんでした。また、乳がんの罹患率(発生率)は、中国の啓東地方の女性では10万人当たり11人で、都市(上海と天津)では、啓東地方の2倍、都市化がさらに進んでいる香港では3倍(10万人当たり34人)となっているそうです(113ページ)。


(2013年8月29日)

・最初のページに戻る