東京大学東洋文化研究所の池本幸生教授の定年退官にともなう「Greed is Dead:強欲は善か」というタイトルの最終研究発表会が3月17日にオンラインで公開開催されます

池本教授は長年アジア諸国の所得分配を研究されてきましたが、国民の幸福度/豊かさを測るのには所得だけでは不十分であると認識されて以降は、1998年にノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・セン博士の提唱した「ケイパビリティ(健康状態や教育水準などによって現時点で実現可能となっている能力という意味で使われており、将来性という意味で使われる潜在能力とは異なる)」という基準に着目した研究を続けてこられ、この分野の国内での研究をリードされてきました。特に、コーヒー産業と生産者の貧困問題についてのご研究は、生産者を支援するための社会運動にもつながっています〔『コーヒーで読み解くSDGs』(José 川島良彰、池本幸生、山下加夏、共著)をご参照ください〕。

新自由主義経済の下で、金儲け至上主義が世界的に横行していますが、『国富論』で自由経済を提唱したアダム・スミスの考えのベースには、「共感と公平な観察者により、社会は道徳的に望ましい形にかえていくことができる」(『道徳感情論』アダム・スミス)という考えがあったため、この部分を欠いた経済というのは、アダム・スミスの想定していた自由主義経済からは逸脱していると考えられるようです(『連帯経済とソーシャル・ビジネス』池本幸生・松井範惇編著)。

先生は3月で定年を迎えられるため、3月17日には「Greed is Dead(直訳は『強欲は死んだ』):強欲は善か」という最終研究発表会が公開開催されます。東洋経済研究所の登録フォームに登録すると誰でも講演をオンラインで聞くことができるだけでなく、登録された方には後日録画のURLも送られるそうですので、当日時間がとれない方も登録されることをお勧めします。

下に講演の要項をコピーします(2022年3月14日)。

〔2022年3月29日追記〕「最終研究発表会」の動画へのリンクが送られてきましたので、先生のお許しを得てリンクを張らせていただきます。
https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/rec/share/aSWJZ8NvOtwM2kvcm0ghaIfrcccFYOKOKvK0_JGp0Hox2j0puwWdfG0vVWkyKisd.p-EwoGMukefntK76

格差の拡大などの問題を引き起こした新自由主義にその根拠を提供してきた近代経済学の問題点が明らかになってきましたが、これらの問題点を専門家のお立場から、分かりやすく説明されている貴重な動画だと思いました。また、格差の拡大を解消するための、新たな概念である「ケイパビリティ」についても詳しく説明されていますので、この分野にご興味をお持ちの方にとっては、またとない入門のための講義となっていると思います。


東京大学東洋経済研究所

池本幸生教授 最終研究発表会「Greed is Dead:強欲は善か」のお知らせ
【日時】 2022年3月17日(木)14時~16時

【会場】オンライン(Zoomミーティング)

【申込方法】
登録フォーム ( https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/meeting/register/tZUsce6sqDIpG9MqcLjtnEjtJIjGD6YQmJU9 ) より、3月16日(水)17時までにお申し込みください。ご登録いただいた方には、登録されたメールアドレス宛てに、後日、録画のURLをお送りしますので、3月17日にご視聴いただけない方もぜひお申込みください。

【題目】Greed is Dead:強欲は善か

【発表者】 池本 幸生 (東京大学東洋文化研究所・教授)

【司会】菅 豊(東京大学東洋文化研究所・教授)

【使用言語】日本語

【要旨】
 経済学が想定する人間像は、「自分自身の効用を最大化する」という「経済人」である。他人の「効用」をまったく考慮しないという意味で「利己的」である。効用を「幸せ」と見なせば、「経済人」は自分自身の幸福だけを考える人間だが、「経済人」の「効用」が所得によって決まると仮定するので、金儲けだけを考える人間である。この奇妙な人間像を受け入れてしまった経済学者は利己的になる傾向があるということを示す研究もある。
 1980年代になると、「強欲はいいことだ」と公言する投資家が表れ、1987年の映画『ウォール街』で、「他人を苦しめる強欲な投資家」として描かれる主人公ゴードン・ゲッコーのモデルとなる。この映画監督はゲッコーを批判的に描こうとしたが、その意図に反してゲッコーに憧れ、ゲッコーにならってウォール街の世界に飛び込む若者が増えていった。1990年代になると、アメリカでは「強欲は善だ」という考え方が広まり、日本にも遅れて入ってくる。2000年代になると「メザシを食べる経営者の時代は終わった」と言う経営者が現れた。強欲な経営者にとって自分自身の利益になるのであれば、平気で嘘をつくし、法律を犯すことも気にしない。楽器ケースに隠れて国外に逃亡する者もいた。企業は検査データを改ざんし、政府は統計を改ざんし、経済学者はその統計を使っている。強欲を容認することと倫理観の崩壊の間には関連がありそうである。
 利己心を擁護するために引用されるアダム・スミスだが、スミスは『国富論』の中で、パン屋を例に自分自身の利益を追求することは擁護したものの、道徳哲学者であったスミスが、倫理に反して強欲であることを擁護したわけではなかった。いつ頃からどのようにして経済学は「強欲であること」を擁護することになったのだろうか。このことを、アマルティア・センの『正義のアイデア』とポール・コリアーの『Greed is Dead』を参考にしながら考えてみたい。

【問い合わせ先】last_lecture_20220317@ioc.u-tokyo.ac.jp

担当:池本


登録種別:研究会関連
登録日時:MonFeb713:51:212022
登録者 :池本・板橋・田川
掲載期間:20220208 - 20220317
当日期間:20220317 - 20220317



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