問題5(健康)の答え・・・a. アルミニウムです。
アルミニウムは地殻の重量全体の8.1%と金属としては最大の構成比を占める元素です。しかし、黒田洋一郎著「ボケの原因を探る」(岩波新書)によれば、生物が生存していくのにはアルミニウムはまったく必要がないばかりでなく、アルミニウムは明白な神経毒性を持っているそうです(同書147ページ)。地殻の構成要素となっているアルミニウムはケイ酸アルミニウムなどの安定的な化合物となっており、生物はこれらアルミニウム化合物の体内への侵入を防ぐ機能を持っているようです。ところが、技術の進歩に伴って、自然界にはほとんど存在していない、単体の金属アルミニウムの利用が活発化したり、酸性雨によって地殻中のアルミニウムがイオン化されて流出することによって、安定化合物にはうまく働いていた生物のアルミニウムに対する防御機能が十分に機能しなくなってきた恐れがあるそうです。その一つの現れがアルツハイマー病である可能性が高いとみられています。アルミニウムがどのようにして、アルツハイマー症の典型的な症状である老人斑の形成や、原繊維変化を引き起こすかという点も明らかにされているそうです。
また、水道水に含まれるアルミニウムとアルツハイマー病の発症率の間には、はっきりとした関係が認められるという報告が世界各国で公表されています。黒田洋一郎「アルツハイマー病の発症プロセスと危険因子」『科学』(岩波書店刊)97年9月号に取り上げられている各国の研究成果を以下に引用させていただきます。
飲料水中のアルミニウムとアルツハイマー病との相関を示す疫学データ
報告者 | 報告 年度 |
国名 | 比較した2地点の アルミニウム濃度 (1リットル当たり 百万分の1グラム) |
2地点の 相対危険度 |
VOGT | 1986 | ノールウェー | 20:200 | 1.48 |
MARTYN | 1989 | イギリス | 0〜10:100以上 | 1.5 |
MICHEL | 1990 | フランス | 10:160 | 4.53 |
FLATEN |
1990 | ノルウェー | 5:200以上 | 1.42 |
NERI | 1991 | カナダ | 0〜10:200 | 1.46 |
FRECKER | 1991 | カナダ | 10:150以上 | 3.0 |
WETTSTEIN | 1991 | スイス | 10:200 | 相関なし |
FORBES | 1992 | カナダ | 低Al高F(フッ素):高Al低F | 2.7 |
JACQMINE | 1994 | フランス | 5:200 | 1.33 |
FORBES | 1994 | カナダ | 低Al高F(フッ素):高Al低F | 4.42 |
McLACHLAN | 1997 | カナダ | 100以下:100以上 | 2.3 |
「ぼけの原因を探る」によれば、酸性になりやすく、引っかき傷のできやすい鍋(なべ)などの調理器具や食器から無視できない量のアルミニウムが溶出することは実験的なデータもあり、米国の脳神経研究のある専門家は子供のことを考えて家中のアルミの食器や調理器具をステンレス製に換えたそうです。
日本では、アルミ加工業界の声を代表したためか、医学専門誌でもない"軽金属"誌に、自分の実験データをまったく欠いた「アルミニウムはアルツハイマー病の原因ではない」という趣旨の論文が発表されこれがアルツハイマー病の専門家といわれる人の間でさえ広まったそうです。国民の健康よりも業界の利益が重視されるという構図は、公害問題全般、薬害エイズ問題、たばこのコマーシャルがいまだに放映されている問題などと共通しているようです(97年9月28日)。
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