問題19 (語学)の答え・・・最も答えにくい質問は b. whyです。

神田橋 條治著 『精神科診断面接のコツ』には精神科医が患者を問診するときのコツが詳しく説明されています。このコツは、問診だけでなく、日常的な人間関係にも応用できるものがかなりあります。同書の128ページには、下のような図が載っています。

この表は、質問のタイプを答えやすい順番にならべたものです。各質問の特徴を同書に基づいて、説明してみましょう。@ の yes or no が答えやすいのは当然ですが、Aのwhich はいくつかの答えの中から、一つを選択するために、yes or noの次に簡単であるとされています。Bの what , whoはおおむね、物とか人の視覚像に置き換えることができるという意味で、割合答えやすいと考えられています。Cの where, when, how はBに比べて、視覚像に置き換えにくい要素を含んでいるため、Bよりも難しいと考えられています。Dは、理由、意味を考えなければ答えられないため、答えるのが一番難しいとみなされています。

@からDまで、数字が大きくなるほど、答えにくくなると同時に、答えの明確さは低下しますが、情報量は増加することになるようです。

そのため、明確な情報を求めている場合には、なるべく数字の小さい方の質問をした方がいいことになります。ただ、数字の小さい方の質問をするためには、相手のことや、いろいろな状況についてあらかじめ、知っている必要があり、事前に十分準備しておかなければ、重要な問題について、有効なyes or no questionやwhichで始まる質問をすることはできません。

逆に、質問するのは簡単ですが、最も答えにくいのが、whyで始まる質問です。この質問は情報量が多いため、人間が最も知りたい内容についての質問となる場合が多いようです。3歳児がやたらと「なぜ」を連発するのは、子供にとってそれが一番知りたいことだからでしょう。ただ、答える側は、論理的、抽象的な思考が求められるため、四苦八苦しなければならなくなることも多いようです。おとなになっても、やたらと「なぜ」を連発するのは、精神的な成長が遅れていると見られかねません。

さらに、一般的な人間関係の場合には、「なぜですか」と聞くことが、相手に対して失礼に当たる場合が結構あると思います。たとえば、比較的年齢の高い女性に「どうしてあなたは結婚しないのですか」と聞くのは非常に失礼に当たるでしょう。現象学の哲学者(多分フッサールだったと思いますが)が「真実とは人を苦しめるためだけのものである」と言ったというのを以前読んだ記憶があります。たとえ、最も知りたいことでも、知っても仕方がないことは、聞かない方がいいでしょう。

「なぜ」の使い方に、最も注意しなければばならないのは、子供をしかる時でしょう。同書の137―138ページにも、避けるべき例が挙げられていますので引用します。

(「なぜ」「どうして」と質問することによって)、説明を求めるのではなく、質問者の側の納得できない気持を表明することに重点がおかれる場合がある。・・・「どうして、ごはん、こぼすの?」と母親にいわれ、「ごはんに、お茶をかけていたから、こぼれやすいの」などと説明したために 「どうして、すぐ言い訳するの!」としかられたりする子どもの姿は、毎日みることができる。

自分が親切心や好奇心から質問しているつもりでいても、その質問が別の効果をもたらす場合があることには注意する必要があると思います(98年6月9日)。

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