問題34 (日本語)の答え…すべてが不適切な表現です

問題13(日本語)でも紹介しました『記者ハンドブック』(共同通信社刊)には、「誤りやすい用字用語・慣用句」という節があり、9ページにわたって、誤りやすい用法と訂正例が示されています。この中には、必ずしも誤用とはいえないとはいえ、新聞では使わないことにしているものや、用法を統一しているもの含まれています。また、話し言葉では意味を強めるために使われることはあっても、書き言葉では避けたい用例も含まれているそうです。以下に、問題で示した、不適切な例と、その訂正例、なぜ不適切なのかを表にしました。

不適切な表現 訂正例 訂正する理由
a. かねてから かねて 「から」がなくても以前からという意味になるため
b. 従来から 従来、以前から これも a.と同じ理由
c. 照準を当てる 照準を定める、…を合わせる 照準を当てるという行為のイメージが浮かんでこないためだと思います。よく使われる「焦点を当てる」という表現も、同じ理由からおかしいと私は思っており、「焦点を定める、…合わせる」にするべきだと思うのですが、皆様どうお考えでしょうか。
d. ただひたすら ひたすら 「ただ」と「ひたすら」はほぼ同じ意味であるため。
e. 犯罪を犯す 罪を犯す 罪を犯すことを犯罪というため
f. 被害を被る 被害に遭う、被害を受ける 損害を被ることを被害というため
g.人質を釈放する 人質を解放する 釈放は、法的な根拠に基づいて拘禁されている人が解放されること
h. 一つ返事で引き受ける 二つ返事で引き受ける 新明解国語辞典によると、「はいはいとすぐに承知すること」となっています。「はい」を二回言うためなのでしょうか。とにかく慣用句では「二つ返事」となっています。
i. (国会で)法案が成立する 法が成立する 法案は案であって、それ自体が成立することはないため
j. 目から鼻へ抜けた人 目から鼻へ抜けるような人 新明解国語辞典によると「頭の回転が速い形容」だそうです
k. 口をつむる 口をつぐむ 目はつむり、口はつぐむようです。新明解国語辞典によると「進んで所信を表明し、事実を解明すべき立場であるのに、勇気がなかったり、まわりに気を使うことがあったりして、黙ったままでいる」ことだそうです。ここまで、正確に解釈していただくと明解国語辞典の著者の方に感謝したい気持ちになります。この解釈が正しいとすれば、まるで大蔵省のお役人や、長銀幹部の現在の状態を形容するのにぴったりの表現のような気がします。
l. 射程距離に入る 射程(圏)に入る 射程は、弾丸の届く距離であり、射程距離というと意味が重複するため
m.食指をそそる 食指を動かす、食欲をそそる 食指はひとしさし指のことだそうです。広辞苑によれば、食指を動かすは、食欲が起こること、転じて、物事を求める心が起こることだそうです
n. 安定化に向かう 安定に向かう 安定化するというのは、安定に向かうことであるため


『記者ハンドブック』には、不適切な表現として、「差別語・不快用語」についても詳しく説明してあり、「身体の状態、病気、性別、職業(職種)、身分、地位、人種、民族、地域などについて差別の観念を表す言葉、言い回しは使わない」ように勧めています(同書第8版、82ページ)。経済関係の文書などで、意外に気が付かれずに、よく使われている不快用語に、「片手落ち」(ハンドブックでは、不公正、不平等に言い換えることを推奨しています)、「片肺飛行」(比ゆ的にも使わないことが推奨されています)、「は行色」(ちぐはぐ、不均衡に言い換えることが推奨されています)などがあります。(99年5月4日)。

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