問題39(健康)「日本たばこ産業(JT)や大蔵省の担当者は、( c. 未成年者の喫煙は法律で禁じられているのだから、喫煙する未成年者は存在しないはずである)と言っているそうです」が正解です(99年8月14日)。

未成年者の喫煙は急増している

これは、『現代たばこ戦争』(伊佐山芳郎著、岩波新書)の106ページに載っている話です。過去20年以上にわたって日本の反喫煙運動を先導してきた著者の伊佐山弁護士は、「しかし、ことは人間の生命と健康に関わる重大問題である。このような人を馬鹿にした対応でいつまでも逃げきれると考えているとしたら大間違いであろう」と同書で述べています。

これは日本たばこ産業や大蔵省が、自らの地位が脅かされないためについた(問題38でも触れた)「うそ」でしょう。こんなことを言うというのは、「見て見ぬふりをしている」としか考えられません。担当者が本心からこんなことを言っているとしたら、その人の常識は小学生以下でしょう。

例えば、警察庁生活安全局少年課による「不良行為少年の態様別補導人員」という統計でも、97年には38万4,508人の少年が喫煙で補導されたことが分かっています(同書112ページ)。また、日本専売公社、日本たばこ産業の調査データに基づく推計でも、未成年者の年間喫煙本数は78年の66億本から96年には601億本に増加したことが分かります。この18年間に総販売本数は3,014億本から3,483億本に16%しか増加していないのに対して、未成年者の喫煙本数は9.1倍になったことになります(同書108ページ)。

子どもの喫煙問題の深刻さ

喫煙とがんの疫学(えきがく、病気の原因を統計的に明らかにする学問)研究(40歳以上の男女26万5,118人を17年間追跡した大規模研究)で世界的に認められている、故平山雄博士は、

「親が子どもに残すことができる最大の遺産は、子どもにたばこを覚えさせないことである」
「子どもの喫煙は体を張ってでも阻止しなければならない」

とおっしゃったそうです(同書116ページ)。

子どもの喫煙が特に問題なのは、第一に、長期間たばこをやめられない人の多くは若いうちにたばこを吸い始めた人である場合が多いためです。『タバコ・ウォーズ』(フィリップス・J・ヒルツ著、小林薫訳、早川書房)で、著者のヒルツ氏は、たばこの得意客となると思われる人の89%は19歳までにすでに愛用客となっていると指摘しているそうです(『現代たばこ戦争』の166ページ)。

第二に、子どもは細胞分裂が盛んであるため、細胞に傷がついた場合に、複製される遺伝子に突然変異が起こって、がん細胞化しやすいという特徴があり、年を取ってからがんにかかる確率が高まるためです。例えば、1日にたばこを1―9本吸う人が肺がんで死亡する確率は、喫煙開始年齢が20歳以上の場合には、非喫煙者の2.19倍ですが、19歳以下の場合には3倍となります。1日に25本以上吸う人の場合には、同じく8.56倍と9.9倍という差があります。喫煙開始年齢が若い方が、肺がんで死亡する確率が高くなるという傾向は、1日の喫煙本数に関係なく成立するそうです(『現代たばこ戦争』の43ページ)。

問題は、世界中のたばこメーカーが売り上げを伸ばすために、子どもをターゲットにしている点です。1998年5月31日の世界禁煙デーに発表されたWHO(世界保健機構、国連の専門機関の一つ)のメッセージにも、次のような指摘があります(同書119―120ページ)。

「たばこ産業がいくら言い訳をしても、内部資料にはずっと以前からこどもたちがたばこを吸うように願っていたと書かれています。たばこで早死にした喫煙者の穴埋めをしなければ、たばこ会社の存立が危うくなります。こうした新たな喫煙者の大部分は10代の子どもたちです。友人の喫煙の影響もありますが、その友人も大人の喫煙やたばこCMで吸うようになった可能性が高いのです」

たばこは趣味嗜好か?

問題でも触れた『日本経済新聞』(99年8月12日・夕刊)の記事には、厚生省がたばこ消費を半減させようとしていることに対する日本たばこ産業(JT)の次のような反論も引用されていました。

「数値目標化は趣味嗜好(しこう)の世界を行政が誘導することになるうえ、たばこ農家や販売店に計り知れない影響を与える」

この反論では、喫煙することは趣味嗜好の世界に含まれると決めつけていますが、このような見方に対して、同書131ページにはつぎのような指摘があります。

『いくつかの調査によれば、「本当はやめられればたばこをやめたい」と回答する喫煙者が70%を超えているのである。・・・喫煙することを趣味嗜好のうちに入れる人がいる。しかし、本来趣味嗜好の場合、「本当はやめたいのだかやめられないで苦しんでいる趣味嗜好」などというものがほかにあろうか』

また、趣味嗜好というためには、ほかの人の迷惑にならないというのが常識であるのに対して、世の中でこれほど他人の迷惑になる行為はあまりありません。喫煙することによって、周りの人はむりやり喫煙されられるという、受動喫煙の問題があるからです。「私の趣味は人を標的にしてナイフを投げつけることです。思いっきり投げるとすきっとします。また、当たり所が悪いと死ぬこともありますが、足にナイフの柄が当たった場合のように、全く無傷の場合もあるのがおもしろいのです」などという人がいたとしても、それは単なる犯罪行為でしかありません。これについても、同書65ページには次のような指摘があります。

『・・・受動喫煙問題は、快、不快というレベルで済まされるほど軽いことではなく、非喫煙者の健康被害をもたらすという意味で、非喫煙者の健康権、人格権に関わる現代最大の人権問題の一つと言わなければならない』

平山博士の疫学調査によれば、毎日喫煙者が肺がんになった場合には原因の71.5%、喉頭がんの場合は95.8%が喫煙ですが、非喫煙者である既婚女性が肺がんになった場合には、原因の31%は夫の喫煙であることが分かっています(同書40ページ)。

仮に、受動喫煙を一種の公害と考えたとすると、受動喫煙が原因で、人口10万人当たり、700―1,000人が肺がんで、3,000人が心筋梗塞(こうそく)で、その他の病気を含めると、合計5,000人が死亡すると推定され、これは環境基準で環境汚染度の上限を設定する場合の死亡者数の5,000倍になるそうです(同書73ページ)。

また、たばこに含まれるニコチンは、「毒物および劇物取締法」で「毒物」、「薬事法」では「劇薬」にも指定されており、人間の致死量は体重1キログラム当たり1ミリグラムといわれているそうです、そのため1本当たりのニコチン量が20ミリグラムのショートピースを3本飲み込めば、たいていの人間は死ぬそうです。たばこを煙にして肺まで完全に吸い込んだ場合には、タバコの含まれるニコチン量の約20分の1が吸収されるそうです〔問題2で紹介した、同じ著者の『嫌煙権を考える』(岩波新書)の6―9ページ〕。もし、この計算通りなら、ショートピース60本分の煙を肺まで完全に吸い込むと急性ニコチン中毒で死ぬことになります。喫煙は、喫煙者自身にとっても、趣味嗜好というよりは、静かな自殺と考えた方がいいと思います。

厚生省が反喫煙の姿勢を明確化

『現代たばこ戦争』の190ページには次のような記述があります。

1998年12月6日放映のJNN報道特集「25兆円和解の裏で何が? 追い込まれた米たばこ会社と進む毒性表示」の中で、厚生省保険医療局の望月有美子専門官はインタビューに次のように答えている。たばこには「依存性があると考えます」、「絶対真実の因果律というものは、人の体に起こる病気については誰も証明できない」、「疫学という分野があって、たばこを吸う集団と吸わない集団を比較した場合、吸う集団の方にたくさん肺がんが起こる、これは医学の常識です」と語っている。望月氏は、たばこ病訴訟の被告国(くに)の代理人であるので、その発言には重みがある。ちなみに、厚生省作成の『たばこ白書』(1993年)は、「喫煙と肺がんの因果関係は、多くの疫学的研究及び実験的研究でほぼ確立したといえる」と総括している(64ページ)。

さらに、『現代たばこ戦争』の192ページには、『「喫煙とたばこ関連疾病との関係については未だ明らかにされているとは言えない」などと言うのは、たばこ産業サイドの関係者とたばこ会社代理人の弁護士たちだけである』とも指摘されています。

また、194ページには、水俣病の弁護も担当した、たばこ病訴訟弁護団事務局長・山口紀洋弁護士の「水俣病、クロロキン薬害そしてたばこ病」と題する論説(『吸う人と吸わない人のたばこ病』実践社)が引用されています。

「水俣病で情報をかくしていたために、不知火海沿岸の漁民たちが「狂い死に」をし、そして今も後遺症に苦しんでいるわけです。そうした悲惨な被害を見ながら、チッソ水俣工場の社長及び工場長たちは毒液を流し続けたのです。また薬害事件においても、わずかの損害賠償金は取りましたけれども、私たちが17年前に告発した薬害構造は、実はHIV被害の構造と同じなのです。たばこもまったくおなじなのです。JTと大蔵省の役人たちは、喫煙者が体をむしばみ命を奪われているということを冷酷にみつめているのです

巧妙かつ姑息(こそく)になったテレビコマーシャル

最後に問題2で取り上げたたばこのテレビコマーシャルのことについても、触れらさせていただきます。

業界の自主規制で98年4月から、テレビコマーシャルが中止されたのはけっこうなことですが、その代わりに訳の分からない、マナー広告が放送されています。ところが、このマナー広告は、実はタバコの宣伝であるというのが伊佐山弁護士の見方です。

『現代たばこ戦争』の130ページに取り上げられている、俳優緒方拳氏の「たばこは大人だけに許されたたしなみです。だから甘えは許されませんよね。私は愛煙家です。私は捨てない」というマナー広告は、一見マナー広告のように見えますが、実は巧妙かつ姑息(こそく)なたばこのコマーシャルのようです。喫煙を「たしなみ」と言ったり、「愛煙家」という言葉を使ったりするのは、タバコが趣味嗜好であるいう考えを前提としていますが、この点がまず問題と考えられます。また、「大人だけに許された」とか「甘えは許されませんよね」という部分は、若者の自立心を刺激して、禁断の木の実であるタバコの魅力を強調するという手法を使ったもののようです。また「私は捨てない」という部分は意味不明で、「ポイ捨てをしない」という意味にも取れれば、「喫煙の習慣を捨てない」という意味にも取れます。

さらに姑息なコマーシャルとみられるのが、外国人男性がジッポのライターをふところから出して、火をつけようとしたあとで、やめるという一連のコマーシャルです。このコマーシャルには言葉はありません。東欧を思わせる独特な雰囲気の中で、外国人男性が登場します。このコマーシャルの特徴は、非現実的なイメージです。たばこコマーシャルでよく使われる、非現実の手法を使ったものでしょう(オフィスでたばこを吸ったら、海辺のリゾート地にワープするなどというコマーシャルがその例です)。どこか、エキゾチックな場所で、かっこいい男性がたばこを吸いたいという欲求を持っている、というのがメッセージのようです。つまり、たばこの魅力を視聴者に思い出させるという目的があると考えられます。

これらのコマーシャルは、マナー広告の形をとった、販売促進広告であるのは確実と考えられ、その意味で、極めて悪質と言えましょう。このように、表面的に述べていること以外の効果を狙うというのは、コマーシャルではよく使われる手ですが、一種のマインドコントロールと考えられます。大蔵省が筆頭株主になっている企業が、国民の健康をむしばむことが分かっている商品を売るために、このような手段を使うのは、許されてはならないことだと思います。

『現代たばこ戦争』を10名の方にプレゼントします・・・・(終了しました)

このホームページを開設して以来9月で2年になります。これを記念して、たばこをやめたいと思っていらっしゃる方、ご主人やお子さんにやめさせたいと思っていらっしゃる方のうち、先着10人の方に『現代たばこ戦争』(99年5月20日第1刷発行)をお送りします。

『現代たばこ戦争』は、たばこについての最新の情報の集大成ともいえる本です。たばこには習慣性があることの認識が不足していることと、たばこについての情報があまり伝えられていないことが、日本の喫煙者率が、先進工業国中では最高となっている原因のようです。喫煙者の方が『現代たばこ戦争』を読まれれば、禁煙のきっかけになるのは確実だと思います。

ご希望の方は、氏名と送り先の住所を、こちらまでご連絡下さい。当選者にはメールでご連絡します。申し込みが10人に達した時点で申し込みを締め切るということを、ここに発表します(99年8月14日)

申し込みが10人に達しましたのでプレゼントを終了しました(99年12月5日)

著者の伊佐山様にこのクイズのコピーをお送りしましたところ、お読みいただき、間違いも指摘して下さいました。さっそくご指摘に基づいて訂正させていただきました。ご多忙中にもかかわらず、クイズのためにお時間をとっていただきましたことを、心からお礼申し上げます(99年8月25日)。

〔2018年7月7日追記〕禁煙運動のその後の動向については、問題2(健康)最近気付いたこと「アイルランドの禁煙事情と当日券でセンターコートに入れた話」風景写真アルバム浜松町駅前の喫煙所もご参照ください。

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