問題41(警察)、不起訴処分にされたのは、( b. 検察の捜査全般で、警察の協力が得られなくなると困ると判断したためと、 c. 今後二度と違法捜査はしないという「誓約」を警察庁から取り付け、それと引き換えに刑事責任を不問にした)ためでした(99年11月3日)。
『特捜検察』(魚住 昭著、岩波新書、問題9(政治)でも引用させていただきました、128ページ)には、「犯人のアジトに残された新聞紙やお菓子、クリーニング店が使う番号札など約300点の遺留品が手がかりだった。・・・・・その一つひとつをたどっていくと、神奈川県警公安一課の警察官らに突き当たった」と指摘されています。東京地検は十分な証拠を持っていたため、これら警察官の事情聴取に踏み切ったと考えられます。そのため、証拠が十分収集できなかったために不起訴処分にしたのではないようです。
不起訴にすることを決定したのは、検事総長だった故伊藤栄樹氏でした。伊藤氏は遺稿となった『秋霜烈日』に、不起訴とした理由を次のように説明しているそうです(『特捜検察』、129ページ)。
「末端部隊による実行の裏には、警察トップ以下の指示ないし許可があるものと思われる。末端の者だけを処罰したのでは、正義に反する。さりとて、これから指揮系統を次第に遡(さかのぼ)って、次々と検挙してトップにまで至ろうとすれば、問題の部門だけでなく、警察全体が抵抗するだろう。その場合、検察は、警察に勝てるか。どうも必ず勝てるとはいえなさそうだ。勝てたとしても、双方に大きなしこりが残り、治安上困った事態になるおそれがある」
この文章から、極めて重要なことがいくつか分かります。
(1)検事総長は、盗聴が警察によるものであることを前提として話を進めている。・・・十分な証拠をつかまえていたためと考えられます。
(2)警察庁のトップが関与している可能性があると考えている。・・・・少なくても、警察の組織的犯行であることは認めている。
(3)起訴するかどうかは、本来は法律に基づいて判断しなければならないにもかかわらず、「強い相手」には逆らえないと考えたために、不起訴にした。
(4)末端の者だけを処罰するのは正義に反するが、犯罪行為が行われたにもかかわらず処罰しないことは、正義に反しないと考えている。・・・・・法律を自分または検察組織の都合のいいように解釈している。
(5)「治安上困った事態」という部分は、意味がよく分かりませんが、警察が違法な手段による捜査活動を続けられなくなることを指しているのかも知れません。
この検事総長の文章の内容から判断すると、検察は、政治家や民間人の犯罪行為は徹底的に追求するにもかかわらず、警察には頭が上がらないようです。実際、「全国26万人の警察組織に対し、検察は検事が約1,200人、事務官を含めてもわずか1万1,000人余りの組織にすぎない。しかも一般の刑事事件や公安事件の処理など検察の仕事の大部分は、警察の協力なしには1日も成り立たない」そうです(同書129ページ)。
さらに『特捜検察』の129ページには、次のような話が載っています。
伊藤は・・・警察庁と水面下で折衝をくりかえした。結局、二度と違法捜査をしないという「誓約」を警察庁から取り付け、それと引き換えに刑事責任を不問にした。
日本では、検察が警察に二度と違法行為をしないと「誓約」させたことがあると外国人に話したら、信じてもらえるでしょうか。違法行為をしないと誓約するのは普通は犯罪者であって、警察官ではないはずです。『特捜検察』の話を総合すれば、結局、検察と警察は裏取引によって、お互いの立場を守ったことになります。
「盗聴法案(犯罪捜査のための通信傍受に関する法律)」が成立したため、これまでは違法だった盗聴が合法化されたことになります。盗聴法案は、憲法21条の「検閲はこれをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」という条文に抵触するのは明白です。
問題38の回答でも触れましたが、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏の『人間を幸福にしない日本というシステム』(毎日新聞社1994年刊)には、日本国憲法第9条(戦争の放棄)、第15条(公務員の選定・罷免権、全体の奉仕者性、ほか)、第20条(信教の自由、政教分離)、第38条(不利益供述の不強要、自白の証拠能力)、第41条(国会の地位、立法権)、第65条(行政権と内閣)、第76条(裁判官の独立、ほか)、第98条(憲法の最高法規性、ほか)の各条はふだんは完全に無視されていると指摘されていますが、盗聴法の成立によって、無視される条項に第21条も加わったことになります。
日本は法治国家というよりも、戦前のような警察国家への道を歩き始めた可能性があると考えると怖くなります。
(99年11月3日)。
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