問題43(英語)の答え・・(b.「見たところ・・・らしい、・・・のように見える」のみ)になっているというのが正解です。

Collins Cobuild English Dictionary の apparently の項には、二つの意味が挙げられています。その説明の部分を以下に翻訳します(ここでは、この辞書の特徴を強調するために、意図的に直訳にしておきます)。

1. apparently を使うのは、あなたが伝えようとしている情報は、あなたが(実際に)耳にしたものであるとはいえ、その情報が本当かどうかは、はっきりしないということを示そうとする場合です(You use apparently to indicate that the information you are giving is something that you have heard, but you are not certain that it is true)。

2. apparently を使うのは、現時点までに明らかになっている事実から判断して、正しいと考えられる何かについて触れる場合です(You use apparently to refer to something that the facts which are currently available suggest it is the case.)。

この二つの意味は、日本語にすると、どちらも「・・・らしい」、「・・・のようだ」というような意味となり、「明白に」という意味にはなりません。

日本の辞書は私の知っている限り apparent から派生した二つの意味を両方とも挙げているようです。なぜ、このような差が生じたかと考えると、Webster や Concise Oxford などの昔からある辞典の場合には、apparently は独立した項目として説明されているのでなく、apparent の説明の最後に、「-ly adv.(副詞)」などと付け加えられていたため、apparent の意味を副詞化すれば良いと考えられたためのようです。

ところが、初版が1987年に出たばかりですが、非常に高い評価を与えられている Collins Cobuild English Dictionary の場合には、新聞、雑誌、書籍、テレビ、ラジオなどの膨大な用例をデータベース化した「Bank of English」(初版出版時点で100万語、95年の改訂版出版時点では実に2億語が収容されていました。言葉の用例のデータベースは「コーパス」と呼ばれています)に基づいて辞書が作られていることもあって、これまで気付かれなかった、apparent と apparently の意外な関係がはっきりしたのではないかと思います。そのため、上でも説明したように、apparently が独立項目として取り上げられたのではないかと思います。

余談ですが、この辞書の特徴は正確な内容が非常に簡単な形で説明されているという点です。

例えば、book の項には、

a book は何枚かの紙のことで、通常、表面にはことばが印刷されており、束ねられて(綴(と)じられて)、この紙よりも強い紙やボール紙でできたおおい(カバー、表紙)の中に固定されている。Books の内容は例えば、情報、物語、詩などとなっている(A book is a number of pieces of paper, usually with words printed on them, which are fastened together and fixed inside a cover of stronger paper or cardboard. Books contain information, stories or poetry, for example.)

という説明が載っています。これに対して、日本語辞典の広辞苑の場合、「本」の説明は「書籍、書物」と単なる言い換えとなっていて、全く説明になっていません。

実は、apparently は翻訳の専門家の間では、かなり以前から問題になっていた単語のようです。問題13(日本語)にもご登場いただいた、飛田茂雄先生は1982年ころから「apparently の訳語として「明らかに」を最初に持ってきてはいけない」と指摘されてきたそうです(『私が愛する英語辞典たち』南雲堂フェニックス、172ページ)。またこの本の35-36ページには、Collins Cobuild English Dictionary が紹介されており、その中で先生は「これが出たとき、日本では、英国で長年培われてきた辞典の優れた体裁を打ち壊すものだとか、7万語程度で、しかも中学生に話しかけるような説明は幼稚で、実用性が乏しいなどの批判を呼んだが、私は現代英語について数え切れないほど多くのことを教えられた」と述べられています。

また、有名な翻訳家の別宮貞徳氏は『誤訳辞典』(バベル・プレス、196-197ページ)に、apparent と apparently について、「副詞の apparently も・・・「明らかに」と「見たところ・・・らしい」という二通りで、どちらかは文脈で判断するほかないが、今は後者の方が普通のようで、そのことは研究社『新英和大辞典』第5版(引用者注:1980年初刷)にも指摘されている。もともとapparent、apparently は、appear から出た形容詞、副詞、で apparently は言いかえれば it appears that ・・・だと思えばいい」と指摘されています。

私の数少ない経験でも、apparently を「明らかに」という意味で使っていることはありませんでした。さらに、研究社『新編英和活用大辞典』に載っている apparently を含む30文例の中で、29文例は「・・・のようである」という意味で、残りの1文例も、どちらの意味でもとれるというものでした。

以上から、apparently が「明らかに」という意味になることはないと思います(2000年1月9日)。

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