問題47(社会)の答え・・「(b.「大正世代」)にまで逆戻りした」が正解です。

「団塊世代」のオッズ比は7.885と「大正世代」の7.837をやや上回る水準にまで急上昇しました。

このような変化が起こった原因は戦後の経済成長の効果が消えたためであると、『不平等社会、さよなら総中流』(63ページ)では指摘されています。父が第1層だった場合に、子どもも第1層になる比率(第1層の世襲率)は「昭和ヒトケタ」まではほぼ50%で安定していたそうです。つまりオッズ比の分子(a1/a2)はほぼ一定だったことになります。ところが、高度成長期には、第1層以外の親の子どもが大量に第1層に入るようになり、分母(b1/b2)が増加したため、オッズ比が低下してきたようです。しかし、「戦後の経済成長の効果が消えた後、W雇上(引用者注:私が勝手に「第1層」と名付けた分類項目を同書では「W雇上」と表記しています)の世代間再生産というハードコアが残ったということなのである。いわば解放性のバブルがはじけたのだ」と佐藤氏は指摘しています。

さらに同書の126―7ページには次のような指摘があります。

『「団塊の世代」は…競争がはげしい世代だといわれてきた。だが、その競争の実態は「昭和ヒトケタ」とはちがい、生まれによる有利不利が大きく結果に反映されるものであった。W雇上になれる可能性の格差が拡がり、W雇上のなかでW雇上出身者が優位を占め、W雇上としてつける地位にも歴然と差がある―西ヨーロッパ型の階級社会に近い状態になりつつある。……W雇上以外の人間から見れば…がんばって仕事をしても、結局、W雇上出身者との格差は縮まらない。…まさに「努力してもしかたがない」。平等信仰のなかの疑惑が、今や平等信仰をおおいかくすほどに成長しつつある。それが日本の現状ではないだろうか。…

エリートがどんなに立派な計画をたてても、…実行するのは現場の人間である。現場の人間が自分の将来に希望をもてなくなれば、社会も企業も腐っていくだけだ。日本の産業社会はこれまで質の高い労働力を売り物にしてきた。それは現場の人間の質が高かったからである。「努力すればナントカなる」、たとえ自分がだめでも子どもに夢を託せる、そういう社会への信頼があったからこそまじめに働く気になれたのだ』

JCO(住友金属鉱山の子会社)のウラン転換工場での臨界事故や雪印乳業の食中毒事件など、日本企業の現場のモラルの低下を示す事件が最近も多数報告されていますが、佐藤氏の見方によれば、これら事件の背景には、「平等意識」の喪失という重大な問題があるようです。

所得分配面での不平等度…日本は世界の先進国中で最も不平等な国の一つ

所得分配についての不平等度を国際比較した表が『日本の経済格差、所得と資産から考える』(橘木(たちばなき)俊詔(としあき)著、岩波新書、5ページ)に載っていました。不平等度はジニ係数によって比較されています。ジニ係数は、全国民の所得が等しい完全平等の場合には0となり、1人の国民が所得を完全に独占する完全不平等の場合には1に近い値になり、値が大きいほど不平等性が強いことを表します。

日本の所得分配のジニ係数は、社会保障給付などを含んだ、再分配所得ベースでは、92年に0.365となっており、階級社会と言われているイギリスの直近値である0.35を上回っています。さらに、ジニ係数の直近値が日本を上回っているのは、先進国では、カナダ(0.404)とフランス(0.372)だけでした。特に低いのは、社会保障が発達しているフィンランド(0.21)、スウェーデン(0.220)です。

さらに驚くべき点は、当初所得ベースでしか入手できないアメリカの89年の値が0.40と日本の89年の当初所得ベースの値(0.433)を下回っているという点です。この尺度に基づけば、アメリカよりも日本の方が所得の不平等度が高いことになります。

日本の所得分配をほかの先進国と比べた場合に、最も特徴的な点が、男女の賃金格差の推移です。男性の平均賃金に対する女性の平均賃金の比率は90年現在で約50%となっており、これは同じ時点の、オーストラリア、スウェーデン、デンマーク、フランスなどの80―90%、西ドイツ、アメリカの70 %程度を大きく下回っているだけでなく、先進諸国ではこの比率が上昇トレンドを示しているのに対して、日本の場合には、76年頃の55%程度から低下トレンドを続けているという点です(同書95ページ)。

所得分配面からみると、日本は世界の先進国の中で最も不平等な国の一つとなっているようです。ただし、資産分布(『日本の所得格差』の15ページに80年代半ばのデータが紹介されています)でみると、日本のジニ係数はアメリカやその他の先進国の値をかなり下回っています。ただ、この値もバブル経済によって、これらの国にかなり近づいたとみられます。

重大な誤植を見つけました

本題とは全く関係ないのですが、『日本の所得格差』には、本全体の信頼性に疑問を生じさせるような誤植または間違いがあるようです。同書の6―7ページに掲載されている、「ジニ係数とは」という用語解説文(下にコピーさせていただきました)の中には2カ所の誤りがあると思います。まず、ジニ係数の定義式が違っています。正しい式は、この値を平均値で割った値となります。この点については、世界大百科事典(平凡社)のジニ係数の項で確認しましたが、ちょっと考えるだけで、この式がおかしいことが分かります。

まず、全員の所得が10倍になったと仮定します。これは、たとえば、デノミネーション(貨幣の呼称単位の切り下げまたは切り上げ、英語では redenomination, revalorization of currency と言い、denomination 自体にこの意味はないそうです)が行われた場合を考えればいいでしょう。この場合、全員の所得が同じ比率で増加するため、所得格差に変化がないのは明らかでしょう。それにもかかわらず、下のコピーの式だとジニ係数は10倍になるのは明白です。しかも、この値が0から1の間に収まる必然性は全くありません。

これに対して、これを平均値で割った式の場合には、分子だけでなく、分母も10倍になるため、ジニ係数は変化しないことになり、所得格差という概念の直感と矛盾しないことになります。この値が0から1の間に収まることは、人口が2人の場合を考えても分かります(この場合の最大値は2分の1になります)。

もう一つの間違いは、完全不平等の場合の最大値が 1 とされている点です。人口が n 人の場合の最大値は厳密に計算すると(1-1/n)となります。たとえば、人口が2人の場合の最大値は1/2(=1−1/2)となります。nが大きい値の場合には、第2項が0に近づくのため、最大値は1に近づきますが、数学的厳密性に欠ける表記だと思います。

また、「図で理解した方が、分かりやすい」と書いてありますが、分かりやすいかどうかは疑問だと思います。図を見慣れていて、ローレンツ曲線とは何かを知っている人にとっては分かりやすいでしょうが、私のようなしろうとには、かえってややこしさが増しただけのような気がします。また、「所得のデータによって、横軸と縦軸の軌跡 OB をローレンツ曲線と呼ぶ」というローレンツ曲線の定義は、単に「曲線 OB をローレンツ曲線と呼ぶ」とした方がはるかに分かりやすいと思います。さらにこの定義文では、「所得のデータによって」という句が何を修飾しているのかが分からないだけでなく、「横軸と縦軸の軌跡」という言葉は意味不明です。

ジニ係数はこの本の中心的なテーマと直接に関係する重要な尺度で、そのため 6―7ページに特別に項を設けて説明してあり、しかもこの定義式がこの本に出ている唯一の数式であるにもかかわらず、こういう初歩的な誤りがあるというのは、理科系の人間にとっては信じられない話です。岩波新書くらいになると、少なくても5人以上の人が慎重に校正していると思いますが、それでもこんな誤りが残るというのは、お粗末な限りです。

(2000年7月30日)

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