問題59(健康)の答え・・・日本の水質基準の上限濃度はWHO(世界保健機構)のガイドラインの(b.
5)倍、つまり1リットル当たり0.05mg が正解です。ちなみに米国の基準は0.015mgとなっています。
「蛇口の神話」
日本の水道水は安全でそのまま飲めるのに対して、海外の水道水は質が悪いため飲むと腹をこわすというような話をよく聞きます。ところが、水質基準からみると、日本の水道水の水質が欧米諸国の水道の水質よりも優れているというのは『神話』のようです。このことを示す一例が、鉛の濃度の基準です(知り合いの浄水器メーカーの方のお話では、日本の水質基準は水道事業体が送り出す水の水質について46項目が定められているのに対して、フランスの場合には、蛇口から流れ出る水について263項目の基準が定められているそうです)。
『あぶない水道水-「蛇口の神話」を問う』(有田一彦著、三一書房、51、57ページ)によれば、厚生労働省が監修した1992年度の水道水中の鉛の濃度のデータ(水道事業体総数は4,603)では、WHOの5倍となっている日本の基準ぎりぎりの水道事業体が55事業体(全体の1.2%)あり、鉛の濃度がWHOガイドラインの
約10倍(0.10mg)、つまり、日本の基準の2倍に達した事業体も3事業体ありました。国内基準を大幅に上回る事業体があっても、放置されているのは、基準に違反しても「その水を使用すれば直ちに生命に危険を生じ、又は身体の正常な機能に影響を与えるおそれがある場合(厚生労働省の説明)」でなければ処罰されることはないためのようです。
また、基準に違反している事業体があることは公表されていますが、事業体名は公表されていませんから、私または読者の方がその事業体の水道水を飲んでいる可能性もあることになります。例外的に水質を公表している地方自治体もあるようですが、日本国民の大半は、自分が飲んでいる水道水の水質を知る権利を奪われていることになります(同書56―58ページ)。
鉛は猛毒
水道水に鉛が含まれているのは、鉛製の水道管や継ぎ手から溶け出すのが原因とみられています。現在では、水道管に鉛は使われていませんが、昔は鉛管がよく使われていました(配管工や水道事業者のことを英語では、plumber
と言いますがこれは、鉛を意味するラテン語の plumbum を語源としているそうです。鉛の元素記号の
Pb も同じ語源です。鉛のことを英語では普通 lead と言いますがこちらは、ドイツ語で「おもり」を意味する
lot を語源としているそうです) 。古い配管が残っている場合に鉛汚染の問題が生じるようです。
鉛の毒性については、子ども達の知能を低下させる−1(子ども達の鉛中毒−1)ピーター・モンターギュ(訳:安間 武、文責:化学物質問題市民研究会)掲載日:2000年3月9日(http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/rachel/rachel_00/rehw_687.html)に次のような説明があります。
「鉛は猛毒であり、特に発育途上の子ども達の神経系統が鉛に冒され易い。毎日10マイクログラム(マイクログラムは1000分の1mg)の鉛を摂取するだけで、子どもは鉛中毒になる」
さらに、「アメリカ疾病対策センター(CDC)によれば、今日アメリカでは、100万人近く(983,000人)の5歳未満の子ども達が、低レベル鉛汚染の害を被っていると考えられる。低レベル鉛汚染は、学習障害、多動症、運動機能障害、その他発育上の欠陥を引き起こす。実際に、低知能指数、聴覚障害、低身長などは、アメリカ政府が現在、許容値として見なしている、血液
0.1リットル当たり10マイクログラムの鉛含有量よりもはるかに低いレベルで、起きている」そうです。
また、『あぶない水道水』によれば、「(鉛は)発ガン性も疑われている。最も深刻な影響を受けやすいのは乳幼児や妊産婦であり、乳幼児の血中鉛濃度と水道水中の鉛の濃度には一定の因果関係があるとみなされている。したがって、乳幼児のグループをベースにして基準を設定しなければならない」そうです(同書50ページ)。
根拠の乏しい0.05mg以下という鉛濃度基準
『あぶない水道水』によれば、日本の水質基準が1リットル当たり0.05mg と WHOの0.01mgという基準とかけ離れているのは、飲料水以外の原因による鉛の摂取を考慮していないためだそうです(51ページ)。つまり、日本の基準は、鉛は水道水からだけ摂取することを前提にしています。これに対して、WHOのガイドラインでは、鉛の摂取量の半分を水道から摂取すると仮定しています(さらに、二つの基準では、異なる推定法を用いていることも、差が開く一因となっています)。
上記のピーター・モンタギュ氏の論文では、アメリカの鉛汚染では、水道以外の原因の影響が大きいと指摘されています。つまり、第一の原因は、「1976年にアメリカでは禁止となった加鉛ガソリン(引用者注:日本でも1974年に禁止されました)であり、有毒な細かい粉塵として、約590万トン(130億ポンド)が環境中に残留している
。その粉塵の多くは、現在でも、土壌中及び家屋内のチリとして存在している。さらに加鉛ガソリンは、未だにアメリカ以外の多くの国で使用されているので、大気が汚染され続け、有毒の粉塵が間断なく降り注いでいる」
そうです。第二の原因は、「塗料中の鉛」とされています。そのため、「水以外の原因」を無視するというのは、全くナンセンスと言わなければなりません。
WHOの基準は、FAO(国連食料農業機構)/WHO合同食品添加物委員会が1986年に定めた、1週間に体重1kg当たり25マイクログラムという鉛摂取許容量に基づいて計算されているそうです(63ページ)。WHOガイドラインでは、上で指摘したように、このうち半分を飲料水から摂取すると考えています。この場合、体重5kgの人工栄養の乳幼児が、毎日水道水から摂取しても問題がないと考えられる鉛の量の上限は次のように計算されます。
25(マイクログラム)/7(日) X 5 (kg) X 0.5 (半分が飲料水)/1000 (マイクログラムとmgの換算)
= 0.008929 mg
この乳幼児が1日に0.75リットルの飲料水を飲むと仮定すると、水道水の鉛濃度(mg/リットル)の上限は次のように計算されます。
0.008929mg/0.75(リットル) = 0.0119 mg/リットル ≒ 0.01 mg/リットル
もっとも、日本の水質基準でも「長期目標値を1リットル当たり0.01mgと設定し、おおむね10年間に鉛管の敷設替えを行い、鉛濃度の低減化を図ることとする」という付帯文がついているそうです。これに対して、著者の有田氏は、「これでは消費者の健康よりも水道事業体の都合の方を優先させており、対策が遅れて消費者が鉛中毒になっても構わないといっているようなものだ」と指摘しています。
日本の乳幼児は許容量の3.0―5.5倍の鉛を摂取している恐れがあります
実際、WHOの推計方式が正しいと仮定すると、鉛濃度0.05mg/リットルの水道水を飲んでいる乳幼児は、FAO/WHO合同食品添加物委員会の鉛摂取許容量の3.0倍(水道水から2.5倍、その他から0.5倍)、同じく0.10mg/リットルの場合には5.5倍(水道水から5.0倍、その他から0.5倍)の鉛を毎日摂取していることになります。粉ミルクで赤ちゃんを育てられている方は、(1)バケツ3杯分くらい流した後の水を使うか(古い水道管にたまった水道水が汚染されている可能性があり、これを流し出すため)、(2)信頼のおけるミネラルウォーターを使う必要があるようです。『あぶない水道水』の137ページに取り上げられた5種類の日本のミネラルウォーターのうちで、細菌検査を毎日実施しているのはサントリーの『南アルプスの天然水』だけであるのに対して、フランスのEvian
は1日に4回検査しているそうです。また、市販の浄水器で鉛をどの程度除去できるかを明示している機種はないそうです(150ページ)(2002年1月1日)。
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