「ホームレス大国」への道

ニューヨークよりも新宿の方がホームレスの数が多いという話を二人の人から聞きました。一人は過去2年間ニューヨークに駐在していて、その前の数年間も海外勤務だった友人の日本人会社員です。昨年末に一時帰国したこの友人と、12月30日に新宿で会ったのですが、10年ぶりくらいに歩いた、新宿のホームレスの数はニューヨークよりも多い感じだと言っていました。新宿では珍しくない、通路に人が寝ているなどという状態は、ニューヨークではなくなったと言っていました。もう一人は米国人で、別の友人から間接的に聞いた話ですが、その米国人は、新宿の副都心から、駅につながる地下通路を歩いているときにホームレスが多いのに驚いて、ニューヨークよりも新宿の方がホームレスが多いと言ったそうです。

この通路にダンボール・ハウスが並んでいた頃よりも、ホームレスの数は減ったような印象があっただけに意外な気がしました。東京都によると、東京都23区内のホームレスの数は、96年8月時点が約3,500人、97年は3,700人となり、98年には4,300人というように増加しているようです(『週刊ダイヤモンド』98年12月26日/1月2日新春合併号)。さらに「ホームレス日本一」の大阪市には98年8月で8,660人と東京の倍もいるそうです。

99年には、景気の回復は期待できないため、さらに増加する可能性が高いようです。住宅ローン破綻や家庭崩壊などで、普通の生活をしていた人たちがあっという間にホームレスとなる、かつてのアメリカのような時代になってきたようです。これに伴って、中高年男性が中心だったホームレスが、若者、女性、外国人などにも広がり、家族連れのホームレスも出現すると『週刊ダイヤモンド』の記事を書いた、相川俊秀氏は予想しています。

11月の日本の失業率が4.4%と米国の4.3%を上回るなど、雇用不安はますます深刻化していますが、相川氏によれば、行政側のホームレス対策はゼロに等しいというお寒い状況が続いているようです。さらに、アメリカではボランティア活動が盛んで、ホームレスのために積極的に活動しているようですが、日本の場合はこのような活動は非常に限られていると思います。どうも日本は「ホームレス大国」への道をたどっているような気がします(99年1月15日)。

大阪のホームレス・テント村(99年7月4日追記)

ラーメン屋のカウンターの下にあった『女性自身』(99年3月2日付)によれば、大阪市内には三つの大きなホームレス・テント村があるそうです。同誌(194―195ページ)の『ドキュメント「子連れホームレス」悲痛な叫び!』によれば、大阪市内には、大阪城公園(テント数約300)、扇町公園(大阪駅の隣の天満駅の近く、テント数約50)、長居公園(サッカーでおなじみの長居陸上競技場がある公園)にホームレス・テント村があり、この三つが「三大テント村」と呼ばれているそうです。ラーメン屋からこの雑誌を借りてコピーをとりましたので、この記事を以下で詳しくご紹介させていただきます。

この記事では、20歳の身障者のお子さんとお二人で、扇町公園にテントを建てて住んでいらっしゃるAさん(57歳の女性)のことが紹介されています。

Aさんは、5年前に当時25歳だった娘さんを交通事故で失われました。ご主人は、その事故のショックで仕事が思うようにできなくなり、昨年10月には脳溢血(のういっけつ)で倒れ、現在でも入院されているそうです。病人と身障者のお子さんを抱えていたうえ、不況で仕事も少なくなってきたために、500万円もの借金を抱えてしまい、家賃も払えなくなり、テント村で生活するようになったとのことです。

現在Aさんは、土日以外は朝8時から2―3時間くらい、建設現場の後片づけの仕事をして、正午前に帰って、洗濯や昼ご飯の支度をしてから、夫の病院に見舞いに行き、そのあとで夕食の支度をし、テレビもないので、夜8時には横になるという生活を続けられているそうです。

建設現場の後片づけのパートで1カ月5万円程度の収入を得ており(このほか自転車で通勤することで、交通費の8,000円を稼ぎ出しています)、これが一家のすべての収入だそうです。1日にかかるお金は、親子2人で2,000円は必要で、特に痛いと思うのは、330円の銭湯代だそうです。

なぜ福祉施設などに頼らずに自活するのかという質問にAさんは、「ここでもようけ、いい人は いはりますからね。テントを建ててくれた元大工さん。夏は張り替えもしてくれはったし。元散髪屋さんもいろいろ面倒をみてくれはる。お金の支援までね。空き缶や段ボール、粗大ゴミを集めたお金でね。貧しいながらも人情のある人が多くて」と答えられたそうです。これについて記者は「管理された施設では人情は得にくい。さらに単身者優先や制約もあるため、難しいところがあるのだろう」と指摘しています。Aさんの現在の希望について、「将来があるこの子のためにも頑張らんといかん。今年中にはここを出たいと、その思いだけですよ」と語っています。希望がかなうことを心から祈ります。

大阪のあるボランティアは、「以前のホームレスは、家族とか一般の生活や仕事のしがらみから逃れて勝手気ままにひとり暮らしている人が多かったけど、昨年暮れから夫婦とか親子とか、不況のせいでホームレスを余儀なくされている人が急増しています」と語っているそうです。社会のひずみがホームレス村にもはっきりと表れているようです。

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