問題24についての小川教授のコメント

このホームページの開設1周年を記念して98年9月29日に出題した、懸賞クイズ、問題24(特別クイズ、数学)には、「形の科学会」という学際的な研究会の会長をされている、筑波大学物理工学系教授、小川 泰様が正解をお寄せいただいたことについては、問題と解答にも記載しておきました。

その後、「形の科学会」の定期刊行物である『形の科学会誌』 第13巻 第3号に、小川先生がこの問題についての専門家としてのご意見を掲載されましたので、先生のお許しを得て下に掲載させていただきます。

専門家向けの文章であるため、読むのに苦労しましたが、連立方程式の基本と、今では中学校で教えられている幾何学の初歩が分かれば、かなり理解できる内容だと思いました。素人の悲しさと、頭が堅くなっているために、残念ながら、必死に読んでも私には分からない部分もありました。この点を含めて、私の印象も最後に付け加えておきました。


『形の科学会誌』 第13巻 第3号 180―181ページ

専門家的な発想の盲点

前号交流欄に寄せて

小川 泰(筑波大学物理工学系)
筑波大学物理工学系  305-8573 つくば市天王台1-1-1
ogawa@bk.tsukuba.ac.jp

前号から始まった交流欄で、会員外の小倉正孝氏から懸賞金付きパズルが提供された。正確には前号を見ていただくこととして、問題を私流に表現すると、「正p角形を面とする正n面体がq辺形の対称面を持っているとき、対称面の枚数rを、5種類の正多面体について3変数n、p、qで一般的に表せ」というものである。実際に調べてみると、次のようになっている。

正多面体と対称面の性質

面数 角数 対称面の辺数 対称面数
出題者の記法 n p q r
専門家の記法 F p
正4面体 4 3 3 6
正6面体 6 4 4 9
正8面体 8 3 4 9
正12面体 12 5 6 15
正20面体 20 3 6 15


出題者が想定した正解は3np/2qであった。
 さて、11月の第43回シンポジウムで会誌を入手し、翌日に解いた私の思考過程は以下のようなものであった。
 専門家の間では、正多面体を正p角形q枚が各頂点で会するものとして(p,q)で特徴づける習慣がある。次の表および以下ではこのqをq'と表した。(p,q')(q',p)は面と頂点の立場を交換したもので、互いに双対であるという。双対なものの対称面数は共通である。従って3種類の答えしかない。また、答えはpとqについて対称な式である。pq'とかp+q'、あるいは絶対値記号を使って|p−q'|などの形で式に現れる。

専門家が常用する正多面体の変数と記法

頂点価数 角形 面数 稜数 頂点数
専門家の記法 p q' F E V
専門家の記法 p n
正4面体 3 3 4 6 4
正6面体 4 3 6 12 8
正8面体 3 4 8 12 6
正12面体 5 3 12 30 20
正20面体 3 5 20 30 12

 一寸した考察で、正4面体の各対称面には稜が1本ずつ含まれ、各対称面は稜を1本ずつ2分していることがわかる。すべての稜は、対称面に含まれるかたち(第1種)と、直交するかたち(第2種)と1回ずつ、2様に登場するので r = E = 6本である。
 正6面体と正8面体には、各2種類ずつの対称面がある。前者では含まれるものと2分するものが(2,0),(0,4)、後者では(0,2),(4,0)なので、第1種がE/2 = 6枚と第2種が E/4 = 3枚で、合計 r = 3E/4 = 9枚である。

 正12面体と正20面体では、この本数がいずれも(2,2)なので各 r = E/2 = 15枚である。
 正多面体をこれらの3群に分けて、変数の取り方にはこだわらずに統一的に表すならば、 r = kE と書くことができ、kの値は、1, 3/4,1/2 である。 これら3群はいずれも事情が異なるので、一般式を導く論理を作るのは苦しい。たかだか3種類の値だけを問題にする以上、3計数を含む関数で表せる。前期の pq'、 p+q'、|p−q'|をxとして、axx + bx + c (引用者のおわび: x の2乗をxx と表示してありますが、これは引用者の能力不足のために、uの右肩の2の小文字の表し方が分からなかったためです)と表すのが最も簡単な式である。3種の場合に対応させて、a,b,cに対する3元1次方程式を作れば解くことができる。実際にはいずれの場合も a = 0 となって、kはxの1次式になっている。結果は、〔2/5 − (p+q')/4〕, 〔7/4-pq'/12〕, 〔1- |p−q'|/4〕となり、p,q',Eで表せたことになる。さらに次に述べるように、稜の数 Eはpとq'の対称式となる。式

E = 2pq'/(2p+2q'-pq')

はCoxeterの『幾何学入門』にも出ているが、Euler関数式を使うと比較的容易に導ける。題意に従って、面数 n = F で表すには、2E = pFを使えばよい。qではなくq'を使ったことを除けばこれで素直といえよう。とにかく3種類の場合を統一的に表現できる実験式ということである。
 さて、専門家の間では常識といっても、設題に指定されているqを使わずに、同じ記号を別の量q'をqと書いて使ったのでは、試験ならそれだけで、大幅な減点あるいは失格であろう。小倉さんからの連絡でこのことがわかった。しかし、変数を取り替えても、事情は本質的には変わらない。p,q,nの1次式とした同様の過程で3群に当てはまる実験式 3(q-1)を得た。nとpの計数が消えてしまったのである。これらの実験式は成り立つということ以外には理由がない。
 さて、出題者の正解についての私の理解を以下に述べる。「対称面の辺として現れるのは多面体の稜と面の対称線のいずれかである。正p角形には、pの偶数奇数によらずに対称線がp本ある。多面体全体では対称線がnp本、稜の総数はE = np/2、合計3np/2本」を対称面当たりq本ずつ使うのだから正解の(3np)/(2q)が導かれる。ということである。確かにこの問題では、小倉さんのqを使うと便利である。
 専門家的な発想では、
1. p と q の2変数で特徴づけられる正多面体で、しかも互いに双対な正多面体に対して同じ結果となる問題で3変数が本質的に必要になるとは思わない。
2. 実験式という便法に頼る。
その結果として、対称面の辺数に関心が行かず、出題者のような発想は持ちにくい盲点となっている。専門家的な発想には、勿論それなりの根拠があるが、発想が限定されがちなのも確かである。今回の体験は、その盲点を思い知らされる新鮮なものであった。賞金については辞退したのだが、元来失格ものなのに送金して下さった。これは形の科学界に寄付させていただくこととしたい。前後では数学の立場と科学の立場の関係についてふれたが、いろいろな意味で盲点に過づいていくことも学際性に富む形の科学の意義と思う。国際会議「かたちの知・知のかたち」でもめざしたように、分野間の壁、専門家と学問愛好市民との間の壁を破りたい。


以下は私の印象です。

1.先生が説明されている双対という概念があることを知らなかったため、ずいぶん回りくどいことになったようです・・・・・・正6面体(つまり立方体)と正八面体、また正12面体と正20面体はそれぞれ双対の関係にあり、その場合同じ対称性を持つということを知っていれば、はるかに簡単に解決できたと思いました。対称面の数は五つの正多面体のうち二つは別の二つと同じになるため、三つについてだけ考えればよくなり、ずいぶん簡単な問題になったと思いました。三つの値しかとらない関数に、変数を三つも持ち込むという必要があるとは思われないというご指摘は全くその通りだと思いました。

2.ただ、正6面体、正8面体の対称面が9枚であることの証明に出てくる、(2,0)、(0,4)、(0,2)、(4,0)という記法と、正12面体、正20面体の対称面が15枚であるという証明に出てくる(2,2)という記法の意味がよく分かりませんでした。その上に出てくる(p,q)とも違うようですし、結晶構造のときに出てくる面の表示法とも違うようです。

3.先生の3(q-1)という答えは非常に簡単な形になっているため驚きました。先生は実験式という便法に頼るべきであるとおっしゃっていますが、この式自体には意味がないのかどうか、私はちょっと確かめて見たい気持ちが残っています。方程式を解くと非常に簡単な解答が得られた場合には、なぜそうなったかを知りたくなるのですのが、これは単なる不要な好奇心なのでしょうか。

4.広い知識を持っているとはるかに問題解決の際の見通しがいいということが分かりました。それだけでなく、広い知識がないと、あまり重要でない問題にエネルギーを浪費することになるのかもしれません。正多面体は数が限られているため、素人でも取り組みやすいという特徴があると思いますが、立体幾何学の広い知識がないと、みょうな袋小路に入ってしまうのかも知れません。

最後に、素人のたわごとにご親切につき合っていただいた小川先生に心からお礼申し上げます。(99年5月4日)

小川先生の式と、私が思い付いたと思っていた式の証明が載っている本を守川穣様がお教えくださいました・・・詳しくは「最近気付いたこと」の 問題24(数学)の解答が載っている本を守川穣様がお教えくださいました をご参照ください(2002年10月28日追記)

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