デジタルカメラの限界

何十万円もするデジタル一眼レフを買ってはみたものの、フィルムカメラほどいい写真が撮れないという悩みをかかえている方はいらっしゃいませんか。実は、これは数万円で400万画素のデジタルカメラを買った私の抱えている問題でもあります。たとえば、風景写真アルバムの最初のページに掲載している写真のうち、デジカメで撮った写真は「36. サンルイ島の東端」の1枚だけです。ただ、この写真も、なんとなく霧がかかった感じで、同じ場所からフィルムカメラで撮ると、もっといい写真になったような気がします。

デジカメでは、なぜこれぞという写真が撮れないのかを調べてみました。その結果、これは(私の場合には、もちろん写真がへたなのが最大の原因ですが、それに加えて)デジカメの撮像素子の限界によるところが大きいということが分かりました。その限界とは、(1)露光量の許容範囲が狭いことと、その結果、(2)色かぶりを起こしやすいことです。

(1) 露光量の許容範囲が狭い


撮像素子はフィルムよりも露光量(光の強さX露光時間)の許容範囲が狭いことが、うまく写らない最大の原因のようです。露光量の許容範囲のことを、写真の世界ではラチチュード(latitude)と言います(デジカメの世界では、エレクトロニクス製品であることから、ダイナミック・レンジということもあるようです。ただし、オーディオ機器の場合には、この言葉は増幅できる周波数の範囲のことを指すため、ちょっと意味が違う気がします)。撮像素子の限界のことを説明してあるグラフを見つけましたので、コピーさせていただきました。このグラフは、『デジタル一眼レフカメラ(プロの現場で使える)』(Commercial Photo Series、玄光社刊、2,600円も投資してしまいました)という本の38―45ページの「美しい画像のための撮影ベーシック」〔構成:吉田浩章、監修:望月宏信〕という記事のうち、「適正露出はこうして見極める!」(40ページ)という部分に載っていたものです。

話を簡単にするために白黒写真を考えます。白黒写真は、目に映る情景を、白くて明るいところ(写真の言葉で、明度が高いといいます)は白く、暗いところや黒い(明度が低い)ところは黒くなるように、印画紙に印刷したものです。理想を言えば、目に見える情景のうち、一番白くて明るい(明度が一番高い)部分が、画面上で一番白く、情景のうち一番黒くて暗い(明度の低い)部分が画面上で一番黒くなっていて、その中間の明るさの部分については明るさの違い(階調といいます)が、写真上の濃度(黒さ)の違いとして再現されていればいいということになります。そのため、写真にうまく写るというのは、情景の階調が印画紙の上に再現されていると言い換えることができます。

下のグラフは、露光量と、フィルムまたはデジタル写真(イメージファイル)上の画像の濃度(黒さ)の関係を示しています。点線がフィルムで、緑の線がデジタルカメラの撮像素子の特性を表しています。このグラフで、緑の線より点線の方が左右に広がっていることが分かります。これは、撮像素子よりもフィルムの方が幅広い露光量に対して、階調を再現できることを示しています。たとえば、ハイライト部(被写体像で一番明るい部分)と書かれた肌色の領域のうち、緑の線より右側の部分では、フィルムでは階調が再現されているのに対して、デジタル写真の場合には、真っ白に写ることになります。同様に、シャドー部(影になった部分)と書かれた水色の領域のうち、緑の線より左側の部分では、フィルムでは階調が再現されているのに対して、撮像素子では真っ黒に写ることになります。また、シャッター速度や絞りを調節しても、全体の明るさを同じ比率で調整することになるため、ここで問題となっている最大露光量と最小露光量の関係は変化しません。

『デジタル一眼レフカメラ(プロの現場で使える)』には、フィルムと撮像素子で、露光許容量がどの程度違うかを、数値では示してはいませんでしたが、掲載されている、露出を少しずつずらして写した組写真や、その説明から判断して、デジタル写真の場合は、露光量の許容範囲は、3EV(シャッター速度1目盛りまたは絞りの1目盛り分の露光量の差が1EVで、3EVは3目盛りに相当します)程度のようです。特に、ハイライト部で階調が飛びやすく(真っ白になりやすく)、適正露出から1EV露出オーバーにするだけで、ハイライト飛びが起こることもあるようです。ただ、暗い方は2EVくらいアンダー(露出不足)になっても階調が保たれるようです。これに対して、リバーサル・フィルムでは4EV(上下2EVずつ)、ネガ・フィルムでは5EV(上下2.5EV)のラチチュードがありますから、その差は非常に大きいといえます【EV、絞り、シャッター速度などについて、プロ並みの知識を手軽に手に入れたいとお考えの方には、『CAPA特別編集、露出完全マスターHandBook』(編集&執筆:サンダー平山、北村智史、藤島健、山岡麻子、学習研究社刊、1,450円)がお勧めです】。

この問題は、電子的にある程度修正できるとはいえ、半導体の特性と直接関係しているため、現時点では簡単な解決の方法はないと、松下電器産業の技術者の方がおっしゃっていました。最近どこかのメーカーが、一度に2枚の写真を違う露出で撮って合成して1枚の写真にするというデジタルカメラを開発したという記事を見ましたが、この方法なら可能かもしれません。ただ、コストを考えるとあまり実用的とは思えません。また、スタジオや室内のように、最大と最小の露光量にあまり差のない条件下では、デジタルカメラもフィルムカメラ並みの性能を発揮できるといえます。

(2)色かぶりを起こしやすい


デジタルカメラで写真を撮ると、フィルムカメラで撮影した場合よりも、画面全体が青みがかったり、黄色がかったりしやすいということに気が付かれた方もいらっしゃるかもしれません。この現象を「色かぶり」と言います。この現象のことは、ある程度の性能を持ったデジタルカメラの説明書には必ず書いてあり、修正するための「ホワイトバランス」という機能が付いていると思います。下に、『デジタル一眼レフカメラ(プロの現場で使える)』の42ページから、色かぶりの実例をコピーさせていただきました。ポジフィルム(リバーサル・フィルム)で撮影された右下の画像は問題がないにもかかわらず、ホワイトバランスを「晴天」に設定して撮影されたデジタルカメラの画像は、晴天下であるにもかかわらず、青い色かぶりを起こしていることが分かります。

同書によれば、色かぶりを起こしやすいのも、撮像素子の露光許容範囲が狭いことが原因になっているそうです。つまり、デジタルカラー写真では光を三原色に分解して処理しますが、特定の色がある程度以上の強さになって、上で説明した白黒写真の場合のハイライト部のように真っ白(この場合、真っ赤、真っ青、真緑)になってしまう現象が、色かぶりのようです。この現象も、半導体の性質と関係しているため、簡単には解決しないと思われます。

この二つの問題から、いい写真を撮りたい場合は、フィルムカメラを使う方が確実のようです。

以上で、デジタルカメラの限界の説明はおしまいです。それにしても、これだけ性能に差があることをカメラメーカーだけでなく、アマチュア向けの写真雑誌も説明していないというのは不思議です。新三種の神器の一つの売れ行きに水を差さないという配慮でしょうが、普通のカメラの何倍もするデジタル一眼レフカメラを買わされるユーザーのことも考えてほしいものです。

特に、一眼レフは、レンズを交換できるというメリットはありますが、フィルムカメラの場合ほどメリットは大きくないと思います。フィルムカメラの場合には、現像するまでどんな写真が写っているのかが分からないため、被写界深度(どの範囲までピントが合っているか)とかぼけ具合などをチェックするために、一眼レフは非常に役に立ちます。ところが、デジタルカメラの場合には、撮影しようとする画像を、液晶画面で見ることができるため、複雑な光学機構を持つため高価格になる一眼レフにする必要性は、あまりないと思います。そんなわけで、あまり完成度の高くない写真を撮るために、デジタル一眼レフに大金をつぎ込むのは無駄のような気がします。

(2004年4月29日)。

・最初のページに戻る