問題96(生き方)の答え・・・選択肢a. から n. までの全てがモラルハラスメントにつながる可能性があると『知らずに他人を傷つける人たち』の177ページに載っている「モラハラ人間にならないための「言葉と態度」の修正表」で指摘されています。この表には、これらの問題行動・言動はどのように改善すればいいのかについての精神科医である香山リカ氏のアドバイスも示されているため下にその表をコピーされていただきます。

モラハラ人間にならないための「言葉と態度」の修正表

言ってはいけない言葉(かっこ内)、
やってはいけない態度
望ましい言葉(かっこ内)・態度
a. 相手の質問に答えない 忙しいときでもとにかく返事だけはする
b. 舌打ちする 自分が舌打ちしたときの気分を想像して絶対しない(引用者追記:舌打ちは人に聞こえる場所では絶対にしない方がいいようです)
c. ため息をつく ため息のかわりに「なるほど」と言ってみる
d. 「そんなこともわからないのか」 絶対言わない。あなたは何でもわかるスーパーマンですか?
e. 「何度同じことを言わせるんだ」 「それは前にも聞いたと思うよ」
f. 「お前といるとほんと疲れる」 妻の方がもっと疲れています。
g. 「世界はお前が中心になって回っているんじゃないぞ」 こういうことを言う人間は必ず自分こそが世界の中心だと思っていると他人は見ていますよ。
h. 「言っていることが分からない」 「ごめん、よくわからない。もう一度説明してくれない?」
i. 「誰のおかげで生活できると思っているんだ」 30年前にはOKでも、現代では禁句です!
j. 「お前なんか、社会じゃ絶対通用しないぞ」 あなたも通用しない時代を経て今があるんじゃないですか?こんな言い方をする人間が、社会で立派に通用しているとは思えません
k. 「いま、忙しいんだよ」 「あとでゆっくり話を聞くよ」
m. 「親の顔が見たい」 親の悪口は絶対ダメ(引用者追記:本人に責任がなく、対応のしようもないため反論できないことをいいことに、攻撃のための攻撃では頻繁に使われるネタのようです。)
n. 「どうせ俺なんか才能もないし」 「俺もお前を見習って○○をやってみようと思うんだ」

つまり相手にいやな印象を与えずに情報を伝達する能力を身につける必要があるようです。この点に関して香山氏は176ページに次のように指摘しています。

『精神科医として言っておきたいのは、コミュニケーションのコツは「言うが三割、聞くが七割」ということだ、つまりコミュニケーションというのは「自分の言いたいことを伝える三割と、「相手の言いたいことを聞いて理解する」という七割で成立する。///「コミュニケーション・スキルを身につける」というと、はっきりと自分の意思を主張することだ、と思っている人もいるが、これは大きな誤解だ。声高に自分の意見を言うことなど、とくに練習しなくてもだれにだってできる。それよりも大切なのは、「この人はいまどういう気持ちで何を言おうとしているのか?」と細心の注意を払い、それを配慮しながら自分の次の意見を決め、ときには柔軟に変える、ということだ』

私も全くの同感で、レストランでとなりの席から聞こえてくる話声が、片方の人に極端に偏っている、つまり片方の人がほぼ一方的に話している場合には、意思の疎通がうまくいっていない感じがします。また、香山氏のご意見は、問題65(生き方)答えともほぼ重なるためこちらもご参考にしてください。

いろいろなハラスメントを総称する概念

セクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)、パワー・ハラスメント(職権などを利用した嫌がらせ)、アカデミック・ハラスメント(教職員がその権力利用して学生などに対して行う嫌がらせ)、ドーメスティック・ハラスメント(家庭内での嫌がらせ)など、かつては見逃されていた嫌がらせが問題行動とみなされるようになりましたが、最近、立場や権力の違いがなくても嫌がらせをするケースが増えているそうです。この種の嫌がらせがモラル・ハラスメントと呼ばれています(モラルはここでは倫理的という意味ではなくて、精神的、つまり身体的暴力を伴わないという意味で使われているそうです)。

『知らずに他人を傷つける人たち』によれば「モラル・ハラスメン(略してモラハラ)とは、ことばや態度て繰り返し相手を攻撃し、人格の尊厳を傷つける精神的暴力」のことだそうです。これはフランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌが提唱した言葉で、同氏は「夫婦や家族、職場やそのほかの社会生活のなかで私たちはさまざまなレベルで精神的な暴力を目撃している」と述べています。さらに香山氏は「モラル・ハラスメントは、これら(引用者追記:つまり、いろいろなハラスメント)を総称する概念と考えることもできる」と指摘しています(同書25ページ)。

継続的にモラル・ハラスメントを受けると、ハラスメントを加えた方が悪いにもかかわらず、受けた方が自分が悪いのではないかと考えるようになり、深い心の傷を負い、深刻な後遺症が発生する場合もあるそうです。従来知られていたハラスメントは比較的限定的な環境で発生していたのに対して、モラルハラスメントは、家庭、職場で日常的に発生するため、我々により身近な精神的暴力のようです。そのため誰でもモラル・ハラスメントの加害者になり得るということもできます。そこで、最低限上の表を参考にして自分がモラル・ハラスメントを引き起こさないように気をつける必要があります。

被害者であることを自覚することが出発点

さらに深刻なのは、モラルハラスメントの被害者は、自分が攻撃を受けている自覚がないままに、精神的に落ち込み、「うつ病や過呼吸症候群などの心の病に追い込まれ、中には失踪(しっそう)や自殺まで考えてしまったり」(同書18ページ)、精神科を受診するケースが増えている点です。そこで次に、自分がモラハラ被害者かどうかを判断する方法をご紹介します。

(1)まず「モラハラ人間にならないための「言葉と態度」の修正表」に載っているような「言葉や態度」による攻撃を受けていないか考えてみてください。特に、親のことについて非難する(m. 「親の顔が見たい」の項を参照)かどうかがポイントとなっているようです。

(2)「他人を攻撃せずにはいられない人」(片田珠美(かただたまみ)著、PHP新書)によれば、攻撃欲の強い人の攻撃のターゲットになると、自分ではよく分からないものの、いわば「そこはかとなく」(どこということもなく)いやな感じを受けるという傾向があるようです。特に攻撃を受けていて、次のような症状が出た場合は要注意で、その人とは距離を置くべきだそうです。(「他人を・・・」の61-62ページ)

1. 急に気力がなくなることがある
2. しばしば、罪悪感にさいなまれたり、不信感が募ったりする
3. 突然、もうダメだと自信をなくすことがある
4. ときどき、エネルギーがなくなったように感じる
5. 反論や反撃をしても、ムダだと思う
6. あの人は、何かにつけて私をけなすので、落ち込む
7. あの人の感情を動かしたり、考えを変えさせたりすることはできないと思う
8. あの人のやっていることは、言っていることとずいぶん違うように感じる
9. あの人の言うことには、曖昧さがあり、どう受け止めたらいいのか困惑する
10. あの人がいると、心身の不調を感じることが多い。

「3つ以上あてはまれば、もしかしたらと疑ってみる必要がある。5つ以上当てはまれば、ターゲットにされている可能性がかなり高いので「あの人」とはできる限り距離を置くようにするべきである」と片田医師は指摘しています。

また、攻撃欲の強い人が近くにいる場合には、周囲に次のような反応が表れることが多いそうです(同書63-68ページ)。

1. 重苦しい雰囲気・・・張り詰めた空気が漂う・・・ターゲットにされている被害者のほうに原因があるのではないかと勘違いする人もいるだろう。いずにせよ、向こうの思うつぼである。何しろ、事態をもつれさせて、判断を混乱させる達人なのだから。だからこそ、こういう人の手口や、その背景にある心理をきちんと理解しておくことが必要になる。なによりも、あなた自身が振り回されないように、そして、万一ターゲットにされても、ちゃんと抵抗できるように。

2. もめ事や不和・・・自分が優位に立ちながら支配欲を満足させられるように、周囲を仲たがいさせてお互いに離反させようとする。嫉妬、怒り、うらみつらみなどをかき立てるのがうまいので、周囲にもめ事や不和が絶えないのは当然の帰結とも言えよう。//しかも極めて巧妙に波風を立てるので、もめ事や不和を引き起こしている真犯人が一体誰なのか、周囲が気付くのに時間がかかる。最後まで気付かないことさえある。

3. 病気の増加・・・重苦しい雰囲気の中で毎日毒のある言葉を聞かされていれば、心身ともに変調をきたすのは当然と言えば当然である。

4. 沈滞ムード・・・(こういう人は)あなたが、どれだけ頑張って努力しようと、正当に評価することはない。「よくやった」とほめることもない。むしろ、重箱の隅をつつくようにあら探しをして、あなたの努力を台なしいにしようとする。

5. 疲弊・・・こういう人が近くにいると、あなた自身が直接ターゲットにされていなくても、エネルギーが枯渇していくように感じるはずである。当然、他の人も打ちひしがれたとか、気力がなくなったというふうに感じて、結局みな疲弊していくことになる。

「自己愛的性格」が原因である場合が多い

モラハラという概念を提唱したフランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌは、モラハラの原因は「自己愛的性格」であるとしている(『知らずに他人を傷つける人たち』の26ページ)そうです。自己愛的性格とは、日常用語の「ナルシスト(自己陶酔型の人、うぬぼれや、自己愛の強い人)」や「エゴイスト(利己主義者)」に近く、精神科医が診断の際に参考にしている「精神障害の診断と統計マニュアル-5(DSM-5)」という分類表では、「自己愛性パーソナリティー障害」とされている病気に近い状態のようです。ただ、もっと危険な性格である可能性もあるため、距離を置くのが難しかったり、生命の危険につながる可能性がある場合には、専門家に相談する必要があるようです。

どの程度危険な人物かを判断する際の参考になるのが、『FBIプロファイラーの教える「危ない人」の見分け方』(ジョー・ナヴァロ、トニ・シアラ・ポインター著、西田美緒子(みおこ)著、河出書房新社刊)です。この本では「危ない人」を、「ナルシスト」、「情緒不安定」(DSM-5での「境界性パーソナリティー障害」にほぼ対応)、パラノイア(偏執病、妄想症などとも言われる、DSM-5では「猜疑性パーソナリティー障害/妄想性パーソナリティー障害」)、プレデター(英語のpredatorは、肉食動物のことを意味しますが、比喩的に(弱みにつけ込んで)他人を利用する人という意味もあるようです、DSM-5では「反社会性パーソナリティ障害」)の4種類に分類していますが、この順で危険度が高まるようです。また、4種類それぞれについて、「危険な人格のチェックリスト」が付いていて素人でも特定の性格に該当するかどうかをある程度評価できるようになっています。

またこの本の第6章の「危険な人格から身を守るには」では、深刻な状態になる前に早急に対策をとる必要があることと、その危険回避の方法が示されており、259ページ以下には、相談することができる「役立つ連絡先」の電話番号やホームページへのリンクが(翻訳書ですが、この部分は日本人向けに修正されています)紹介されていますので、このうちリンクが開けて有益な情報が得られるものを下にコピーさせていただきます。

役立つ連絡先

・ドメスティック・バイオレンス

*NPO法人 全国女性シェルターネット(夫や恋人からのDV(ドメスティック・バイオレンス)、デートDVなど、さまざまな暴力に悩む女性をサポートします。)
http://nwsnet.or.jp/

*内閣府・男女共同参画局「DV相談ナビ」 ---電話  0570-0-55210

高齢者虐待

*地域包括支援センターや区市町村の通報・相談窓口など
(東京都福祉保健局)
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kourei/ninchi/gyakutai_madoguchi/index.html

児童虐待

*厚生労働省・児童相談所全国共通ダイヤル --- 0570-064-000

自殺予防

*一般社団法人 日本いのちの電話連盟
http://www.find-j.jp/

*警察総合相談電話番号 ---- #9110
http://www.npa.go.jp/safetylife/soudan/madoguchi.htm

*内閣府 こころの健康相談総合統一ダイヤル ---- 057-064-556
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/link/kokoro/kokoro_dial.html

犯罪統計

*警察庁・統計
https://www.npa.go.jp/toukei/index.htm

犯罪被害者支援

*警察庁犯罪被害者支援室
http://www.npa.go.jp/higaisya/home.htm

*内閣府・犯罪被害者団体等紹介サイト
http://www8.cao.go.jp/hanzai/soudan/kikan/kikan.html

*法テラス(日本司法支援センター)・犯罪被害者支援ダイヤル--- 0570-079714
http://www.houterasu.or.jp/higaishashien/

・メンタルヘルス

*厚生労働省「こころの耳」
http://kokoro.mhlw.go.jp/

外国での犯罪被害
*外務省・海外安全ホームページ「海外で困ったら」
http://www.anzen.mofa.go.jp/pamph/pamph_02.html

(2015年8月17日)

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