精進料理を世界に伝えるために活動されている棚橋俊夫さんは「日本の食卓は危機的状況にある」とお考えのようです

1992年から2007年まで、世界的に高く評価された精進料理の店「月心居」を東京の表参道で運営されたあと、精進料理を世界に伝える活動をされている棚橋俊夫さん(たなはし としおさん、活動の状況は代表をされている「SHOJIN DOJO - ZECOOW Culinary Instituteのホームページ: http://zecoow.com に詳しく紹介されています。棚橋さんのお考えやご経歴についてさらに詳しくお知りになりたい方は、ご著書の『野菜の力 精進の時代』(河出書房新社)や『野菜は天才 SHOJIN』(文化出版社)をご覧ください)のお話を今日個人的にお伺いできました。棚橋さんは日本の食卓は危機的状態にあるとお考えのようですので、お聞きした内容をご紹介させていただきます。

有機野菜がほとんどない・・・・英国では販売されている野菜の30%が有機(オーガニック)野菜ですが、日本ではごくわずか(農地面積の構成比はわずか全体の0.2%程度)だそうです。日本のスーパーでは野菜をラップして、冷蔵ケースに入れて販売していますが、野菜をラップして販売しているのは日本くらいだそうです。これは日本の野菜のほとんどは農薬漬けで、無機肥料で育てられているため、野菜本来の強さが失われていて、「人間で言えば糖尿病状態」にあり、ラップして冷蔵しなければ簡単に腐るためだそうです。これに対して、有機農業で育てられた野菜は、室温でも簡単に腐ることはなく、長期間放置しても、腐らずに「枯れる」そうです。有機野菜生産が少ない背景には、農協(JA)による農薬、無機肥料ビジネス拡大のための圧力の影響があり、JAの利益のために、有機農業の普及が阻害されていると棚橋さんはお考えのようです。

・主食であるコメの消費が減り、食生活が西欧化して輸入小麦への依存度が高まったため、食料自給率が低下している・・・戦後の米国の占領政策の影響で、日本の食卓の西欧化、つまり、パン、牛乳、肉の消費拡大が進行した結果、コメの消費は減少傾向にあります。これは食料自給率を低下される要因となっているだけでなく、肉食、牛乳の消費拡大が、がんをはじめとする生活習慣病の急増につながっている(この点に関しては、主要死因別死亡率のグラフをご参照ください)。

・加工食品に対する規制が緩い
・・・・日本では約1500種類の食品添加物が認可されていますが、これはアメリカ(133品目)の11倍、英国(21品目)の実に71倍と何でも使える感じとなっています。従って、日本人は他国では禁止されている添加物を大量に摂取していることになります。

・種子法廃止、漁業法改正、水道民営化の動きも食の安全性に対する脅威・・・これまで日本の農家に多様な種子を提供する機能を果たしてきた種子法が2017年に廃止され、日本の農家はいずれ米国などの世界的企業が提供する種子を利用せざるを得なくなるとみられます。その場合、遺伝子組み換え種子などの利用も拡大することが見込まれるようです。また2018年12月に漁業法が改正されたことによって、従来は多数の零細な漁業者が保有していた漁業権を大企業も保有できるようになり、零細な漁民は市場から閉め出される可能性がある点は、健全な漁業の発展にとって問題とみられます。やはり、2018年12月に成立した改正水道法によって水道民営化が容易になり、海外では民営化後水道料金が急騰する例が頻発したのと同様に、民営化された場合には日本でも水道料料金値上げが確実のようです。これも妥当な価格での飲料水の提供への重大な脅威となるだけでなく、外資による日本の水源の買い占めなどの恐れを現実化させる可能性も生じるとみられます。

日本人の食べ物に対する嗜好は異常・・・日本人は味が良ければ何でも食べるという傾向があるようです。食品は味や食感よりも、健康に良いかどうかが重要であるというのは自明のことです。また、日本人が大量にむさぼり食べたために、絶滅危惧種となったクロマグロやニホンウナギを、絶滅危惧種に指定されたあとにも平気で食べ続けているというのは、海外からみれば異常な食生活だと思います。味や食感がよければ何でも食べるため、メーカーは大量の添加物を使って日本人の異常な嗜好に合わせた加工食品を提供してきましたが、企業寄りの自民党、公明党に忖度(そんたく)してきた厚生労働省や農林水産省がそうした食品メーカーの言いなりになっていることが、英国ではわずか20種類しか認可されていない食品添加物を1500種類も認可するというような野放し状態の背景となっているようです。

棚橋さんは、現在沖縄の那覇市にお住まいですが、2月末から1週間、料理のプロを対象にしたセミナー・実演のイベントを新潟で開催されました。このイベントには、棚橋さんのお考えに共鳴して、スウェーデン国内の魚と野菜のレストランで、和食のすばらしさを紹介されている、スウェーデン人シェフの方も遠路はるばる参加されました。そのイベントのお帰りに東京で棚橋さんからお話をお聞きできました。また今回、1時間半をかけてすられた「手摺り ねりごま」をおみやげにいただきました。棚橋さんによれば、ごますりは精進料理の基本なので、修行として毎日2時間近くかけてごまをすっていらっしゃるとのことです。ごまを30分くらいすると粘りが出てきて、それをさらに1時間くらいすると、きめの細かいペースト状になるそうです。いただいた「ねりごま」は、すばらしい香りがして、パンにつけて食べると大変上品な味がしました。棚橋さんによれば、ねりごまは、野菜に合い、豆腐の白和えにも向いていて、みそ、はちみつ、黒糖などと混ぜることによってさらに、風味が増すそうです。私も今度、ごますりをやってみたくなりました。棚橋さん、貴重なお話とおみやげをどうもありがとうございました(2019年2月7日)。


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