夜の東京 (1) 渋谷、恵比寿

この写真は2009年10月に渋谷駅の近くを流れている渋谷川に沿って200mほど恵比寿方面に行ったところにある橋から三脚を使ってデジタル一眼レフで写したものです。突き当たりに明るく見える高架橋は、首都高速道路3号線で、その下に、渋谷と横浜を結ぶ東急東横線の渋谷駅の特徴的な半円形の窓が幾つか映っています。

デジタル写真の画質はフィルム写真に及ばないと考えているため(この理由については、「デジタルカメラの限界」に説明しました)、趣味の写真はほとんどフィルムカメラで写してきましたが、デジタル写真の方が優れている点もあることが分かったため、2009年8月にヤフオクで中古の高級デジタル一眼レフを競り落としました。「デジタルカメラの限界」でご説明しましたように、デジタル写真は、露光量の許容範囲(ラチチュードとかダイナミック・レンジと言います)がフィルムカメラに比べて小さいことが、フィルムカメラを使い続けてきた一番の理由でした。

ところが、High Dynamic Range (HDR) Photography という技術の登場によって、デジタル写真の欠点の一部を簡単にカバーすることが可能になりました。上の写真はこの技術を使って処理されたものです。この技術は、同じ位置から異なるシャッター速度(マニュアル露光で、距離、絞り、ISO感度、色温度などは一定にする)で撮影した複数の写真を、ソフトウエアで処理すると、それぞれの画像の適正露出の部分を、コンピュータが自動的に選び、いい部分だけをつなぎ合わせて一つの画像を自動的に作ってくれる(Tone mapping と呼んでいるようです)というありがたいものです。PTGui というソフトを使いましたが、このソフトはパノラマ機能も付いているため、異なる方向に向けて写した、異なる露出の写真(ただし、すべての方向について、同じ露出の組み合わせが必要です)を処理して、1枚のHDR・パノラマ写真を簡単に作ることができます。上の写真は、左向き、中央向き、右向きという3方向それぞれについて、1、2、5、10、30秒という5種類の露光時間で写した、合計15枚の写真をこのソフトで一括処理したものです。このような写真をフィルムカメラで写して、あとから処理しようとすると、とんでもない手間がかかると思います。

もう一つのデジタル写真のメリットは高感度(ISO感度800以上)でも、高画質の写真が撮れるという点です。そのため、夜間や室内でも、フラッシュなしに結構高画質な写真を写すことができ、写真を写せる機会が格段に広がりました。下の写真は、渋谷駅構内の岡本太郎氏の巨大壁画「明日の神話」です。

下の写真は、渋谷駅前の歩道橋から写したものです。

下の写真は、渋谷川に沿ってさらに歩いていったところにある並木橋交差点で、三脚を使って写したものです。この写真の上部に映っている高架は、東急東横線のものです。東急東横線の渋谷駅は山の手線の内側にあるため、電車は出発すると、いったん山手線のかなり内側まで入ってから、大きくカーブして代官山辺りで、山手線の上を横切って横浜方面に向かいます。

同じ場所を逆方向から写した写真です。高架の上を走っていた東横線の電車が帯状に映っています。

下の写真は2009年11月に恵比寿ガーデンプレイスにある東京都写真美術館にセバスチャン・サルガドの写真展を見に行った帰りに写したものです。こんな写真は、フィルムカメラでは、ちょっと写せない感じがします。
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たくさんの電飾のために、冬の夜にもかかわらず、ほのぼのとした感じがありました。

サルガドの展覧会は大変な人気で、切符を買うまで30分、買ってから入場できるまで1時間もかかりました。会場は2階でしたが、入場者はいったん4階まで上って、列の最後尾に付かなければなりませんでした。下は、列の途中で写した写真です。1時間くらい並んだあと、やっと2階の会場前に着くと、それまで、1列だった行列が、2列になりました。そのどさくさにまぎれて、割り込みしようとするおばさんグルーブが二組もいましたが、私やほかの人から、「それは割り込みですよ」と言われると、一人のおばさんは「私はあっちの方から来ました」などと訳の分からないことを言って居座りを図りましたが、さすがに周りの視線の冷たさを感じたのか、すごすごと引き上げていきました。さらに、同じグルーブの女性の一人は、素知らぬふりをして居座ろうとしたようですが、さすがに一人だけでは、心細いためか、10秒くらいしてから、列から離れました。おばさんのグループにはあきれます。

この写真展では問題67(メディア)の答えで、光線の写り方の例として紹介させていただいた下の写真も展示されていました。NHKの日曜美術館で、この写真展が紹介され、サルガド氏が、この写真のことを詳しく説明していましたので、ご紹介させていただきます。

セバスチャン・サルガドの写真展、「人間の大地」(1993年)の図録から、「サヘルの飢餓・エチオピアのティグレ地方からスーダンへの集団移住、エチオピア、1985年」

〔ナレーター〕この写真はサルガドの名を不動のものにした伝説の作品。大木の下にくずれるように座り込んでいる難民の上に降り注いでいるのは朝の光。エチオピア内戦で、戦闘機からの機関銃攻撃を避けるために夜の闇に紛れて歩き続けてきた人々です。わずかな食べ物を取り、放心したような姿。サルガドは、この時も人々のそばで、寄り添うように撮影していました。そして、命の根源を神々しく、1枚の絵画のように写し取ったのです。
〔サルガド〕この写真を写したときのことをお話ししましょう。難民とともに数週間歩き続けた、長い道のりでした。1日中歩きづめでした。彼らを撮影するためには、そこにいることが大きな喜びでなければなりません。人々を尊重しなければなりませんし、彼らの尊厳に敬意を示さなければなりません。朝から晩までともかく一緒にいる必要があるのです。
〔サルガド〕時間のことに、よくこだわるのです。そこにいること、人々と一緒にいて、移動し、その瞬間を待たなければならないということです。この写真のような光はほんのわずかの間しか続きません。この場合幸運にも、土ぼこりやわずかな食事の準備のための煙もありました。その間から、太陽の光が差し込んでいるのを感じたのです。けれども30秒もたつと、ほとんど消えていました。だから、そこにいなければならいのです。一瞬、信じられないことが起こるのですから。

以上が、テレビ番組で聞いたことですが、この写真の偉大さの一端が分かった気がしました(2010年2月13日)。

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