パンテオン・・・最も美しい古代ローマ遺跡

古代ローマ時代の遺跡は、舞台と座席だけの劇場跡、倒れた柱や土台などと「廃墟」と呼ぶのにふさわしいものがほとんどですが、ローマのパンテオンは驚くべきことに約1900年前の状態が現在まで維持されているようです。この場所に最初のパンテオン(ギリシャ語のpan〔すべて〕、theos〔神〕が語源で「すべての神々が祭られた神殿」という意味)がマルクス・アグリッパによって建設されたのは紀元前27年でしたが、紀元80年の大火で崩落し、ドミティアヌス皇帝によって再建されたものの、紀元110年に落雷によって破壊され、その後紀元125年にハドリアヌス皇帝によって再建され、現存する建物の基本部分はこの時代に建設されたものです。ほかの遺跡がことごとく破壊されたにもかかわらず、この神殿がほぼ原形を保つことができたのは、紀元608年以降はキリスト教の教会として使われるようになったためのようです。

そのためもあってミケランジェロはパンテオンのことを「人間ではなく、天使が作った作品のように見える」と語ったそうです。また「赤と黒」などの小説で有名なフランスの小説家、スタンダール(1783年~1842年)は「ローマ散歩」(初版発行1829年)に「ローマ古代のなかでもっとも美しい遺跡、それはおそらくパンテオンである。この神殿はほとんど痛んでいないので、古代ローマ人が見たそのままの姿で僕たちのたちの眼前に現れる」(臼田紘訳、(株)新評論刊、第1巻257ページ)と書いています。ドイツの詩人、劇作家、小説家のゲーテ(1749年~1832年)も「イタリア紀行」(初版発行1816年)で、「時おり私ははたと歩みをとめて、すでに獲得したものの中での最高の頂点を回顧する。・・・・ここ(引用者追記:ローマ)に来てからは、私はロトンダの内外の偉大さにすっかり心を打たれた。」(相良守峯訳、岩波文庫、上巻、180ページ)とローマで見た物の中で最初に言及して絶賛しています。ちなみに「ロトンダ」はこの場合パンテオンのことだそうです。ロトンダはイタリア語の普通名詞で円形の建物、円形テラス、円形広場、ロータリーなどの意味がありますが、「la Rotonda」と冠詞が付けられると、パンテオンのことを意味するそうです。

パンテオンの中心となるドーム(クーポラ)は横断面の直径と天井までの高さがともに43.3mで、サンピエトロ寺院のドームより大きいそうです。また現在でも鉄筋などの補強材が使われていないコンクリート製のドームとしては世界最大だそうです。天井はブロック(caisson、ケーソン、建築用語では「格間」)からできていて、上の写真でも分かるように各ブロックの中央部が凹んでいるのは軽量化のためだそうです。ドームの天井には直径7.8mの明かり取りの丸い穴(ラテン語で眼を意味する「オクルス(oculus)」と呼ばれています)が開けられていて、当然ですがガラスが張られているわけでないため、雨が穴を通って落ちてきます。そのため大理石の床面はわずかに凹面となっていて雨水は22カ所に設置されている排水口に流れ込むようになっているそうです。

この穴から差し込む光は、冬至の日の正午には最上部のブロック部分を照らし、夏至の日の正午には上の写真で玄関の扉の上に写っている格子部分を照らすそうです(夏至の日の状態はこのサイトの表紙で見ることができます)。

上の写真はパンテオンの正面ですが、この部分はポルティコと呼ばれています(ボローニャのアーケードと同じ呼び方ですが、こちらでは正面玄関という意味で使われているようです)。正面部分の屋根は16本の柱で支えられていますが、それぞれの柱は高さ11.8m、直径は1.5m、重さは60トンもあるそうです。エジプトの採石場から100km以上も離れたナイル川まで木製のそりで運ばれ、ナイル川の水位が上昇する春の洪水の時期に、はしけで河口まで運ばれ、河口の港からは船で、現在ではローマ市内となっているオスティア港まで運ばれ、再度はしけに積み替えられてテヴェレ川を使ってローマ市内まで運ばれたそうです。この屋根と天井の部分は英語でペディメント(イタリア語ではfrontòne、切り妻)と呼ばれていていますが、正面には「M・AGRIPPA・L・F・COS・TERTIUM・EFECIT」と書かれていてこれは、「ルキウスの息子マルクス・アグリッパが、3度目の執政官職の際に建造」という意味だそうです(michiko のホームページ、http://little-puku.travel.coocan.jp/1kaigai/20roma.iseki/5pantheon.html を参考にさせていただきました)。また、この部分はアグリッパによって紀元前27年に最初に建設された建物で唯一現存する部分だそうです。

建物の裏側に回ると他の遺跡同様の状態でした。ただ、建設後1900年経っても構造が維持されているのは驚くべきことです。これは、上でご紹介したmichikoのホームページによると、当時の「ローマンコンクリート」という特別のコンクリートの寿命が長いためのようです。下にこのホームページから引用させていただきます。

「ローマンコンクリートは、ローマ帝国時代に使用された建築材料で、現代のコンクリートの倍の強度があったといいます。現在使われているコンクリートの寿命は50年~100年で、その後強度を失っていきますが、ローマンコンクリートの強度は数千年保たれ、パンテオン、コロッセオ、ローマ水道、城壁などは現在まで二千年近く経っても存在しています。ローマ帝国はゲルマン人によって滅亡しますが、それまでのローマの文化・技術の多くは受け継がれませんでした。ローマンコンクリートもしかり(引用者追記:同様)でした。その後現代に至るまでこの様なコンクリートは開発できていません」

現代の技術でも、ローマンコンクリートほどの強度と耐久性を持ったコンクリートが開発できていないというのは驚くべきことですね(2021年2月28日)。

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