問題99(健康)の答え・・・『アルコール ― 少量飲酒習慣から健康障害が始まる』(シュプリンガー・フェアラーク東京、2004年刊、以下では、『アルコール』、残念ながら絶版となっていますが、非常に限られた公立図書館、例えば国会図書館、東京都立図書館、大阪市立図書館、世田谷区図書館には備えられていて、本文が86ページ、全体でも110ページなのでコピーの手間もあまりかかりません。どうしても入手できない場合には、メールでご相談ください。原著のドイツ語版 "Alkohol: Auch der „normale“ Konsum schadet. Urban & Vogel, München 2001"の発行は2001年ですが英語版はないようです)によれば、「節度ある適度な飲酒量」でも 、a. メタボリックシンドローム(代謝症候群)を伴う肥満(とくに内臓脂肪蓄積型肥満)、b. 高血圧、c. 心筋梗塞、d. 糖尿病(インスリン抵抗性)、e. 脳卒中、f. がん(大腸がん、食道がん、咽頭がん、口腔がん)、g. アルツハイマー型認知症にいたるまで、問題に挙げたすべての症状、病気の原因となります。

γ-GTPは飲酒量の指標とみなせる

コルンフーバー博士のアルコールに対する見方の基本となっているのは、アルコールの摂取量と肝障害の指標となっているγ-GTP(ガンマGTP、日本での基準値、男性0-80 IU/L、女性0-48 IU/L、以下同様)、GOT(ASTとも呼ばれる、日本での基準値 8-38 IU/L)、GPT(ALTとも呼ばれる、同4-43 IU/L)という3つの指標(ともに肝臓が障害を受けると、血液中に漏れ出す酵素、「逸脱酵素」の一種)には強い相関があるという点です。例えば、『アルコール』の5ページからコピーさせていただいた下の図によれば、これら3つの指標の値を合計した「SUMTRAN」という指標(同書11ページによれば、基準値は65以内)は毎日のアルコール摂取量が0グラムなら20まで、10グラムなら30まで、20グラムなら60まで、50グラムでは60以上となります。これらの値は(65を上回らない限り)基準値の範囲内ですが、両者間には、はっきりとした相関性があるため、この本ではSUMTRAN および、SUMTRANと相関性の高いγ-GTPの値を飲酒量の指標として用いています。



飲酒量とγ-GTPの関係を直接的に示す図は『アルコール』には載っていなかったため、「人間ドック受検者の飲酒量が検査値に及ぼす影響と介入効果」(『厚生の指標』2010年10月号、石川 信人、山門 桂、繁田 正子著)から両者間の関係を示すグラフを下にコピーさせていただきます。この図からγ-GTPと飲酒量との間には明確な相関があることが分かります。

γ-GTPと1日あたり飲酒量の関係


注:1単位の飲酒量は純アルコールに換算して20gで、ビールで400ml、ワインで130ml程度となります。

『アルコール』の11ページにはγ-GTPとアルコールの関係について次のような指摘があります。

「飲酒量を最も敏感に反映する指標は、やはりγ-GTPである。γ-GTP値の上昇はアルコールの消費量に比例し、GPT、GOTとも相関する。・・・γ-GTPはさらに、肥満や高血圧とも正相関を示し、なかでも最も強く相関するのが中性脂肪(トリグリセリド)値である(引用者追記:すぐ下にコピーした同書7ページの図4参照)。この図で注目すべきは、γ-GTPと(引用者追記:ドイツの基準値を上回る)中性脂肪値の大部分が、γ-GTPが今日正常とされている範囲(ドイツでは0-28 IU/L、日本では男性 0-80 IU/L、女性 0-48 IU/L)でみられることである。このことはγ-GTPの正常域が誤って設定されたことを意味している。換言すれば、この正常域は平均的な市民のデータに基づいており、しかも大多数の市民がアルコールというγ-GTP値を変化させる毒物の影響下にあるために、誤った結論に導かれたのである。・・・では、本当に正常なγ-GTPはどの程度であろうか。仮にそれが25℃で測定されるならば(引用者追記:通常は30℃で測定されますが、温度差の影響は不明)、一般に言われる0-28 IU/L(引用者追記:日本国内では男性0-80 IU/L、女性0-48 IU/L)ではなく 0-10 IU/Lであり、測定誤差を考慮してもせいぜい上限は12以下である」(
引用者追記:表現を統一するため一部訂正してあります

正常なγ-GTPの値は12 IU/L以下であるという上の指摘は、下の図ではγ-GTP値が12 IU/L を上回ると、中性脂肪値が一貫してドイツ人について正常範囲の上限とされている 100mg/dl を上回ることから妥当と考えられます。また、γ-GTP値が16 IU/L を上回ると、中性脂肪値は国内の基準値である30-149mg/dl をも上回ります。その場合日本のγ-GTP基準値
(男性0-80 IU/L、女性0-48 IU/L)は大幅な見直しが必要になります。


引用者追記:上の図では中性脂肪の単位が mg% と書かれていますが、これは100 ml溶液中に含まれる溶質の重量をmg(ミリグラム)単位で表示することを意味します。100mlは1 dl(デシリットル)とも表記されますので、mg%は mg/dl と同じ意味になります。中性脂肪を表示する際に一般に使われる単位には mg/dl と mmol/l があり、mg/dl で表示した値に0.0129を掛けるとmmol/lで表示した値になります。この本の30ページに載っている中性脂肪の別のグラフでは mmol/l を単位としており、その範囲が1以下から2.5以上となっていて、これを mg/dl (またはmg%)単位で表示すると[1/0.0129=77.5を掛けて]77以下から193以上となり、上の図が mg/dl を単位と考えた場合の範囲とほぼ重なります

以下では、『アルコール』に基づいて以下に問題で示した(a) から(i) の各病気に対する少量飲酒の影響をご説明します。

(a)メタボリックシンドローム(代謝症候群)を伴う肥満(とくに内臓脂肪蓄積型肥満)

コルンフーバー氏は1984年に「常識的」な量の飲酒習慣からアルコールの毒作用の結果として肥満が生じることを見いだして、ザルツブルクにおける国際高血圧学会で発表しましたが、この報告は多くの反論と議論を呼び、マスコミでも取り上げられたそうです。しかしその後、Suter, Schutz, Jequierなどの研究者がこの問題について熱量測定法(引用者追記:生体での反応から発生する熱量を呼気に含まれるCO2の量などから測定する方法)を用いて研究し、アルコールは脂肪の燃焼を妨げると結論づけたそうです。今日ではドイツの専門家たちは、肥満の予防には脂肪の少ない食事だけでは不十分で、アルコールがいわゆるビール腹(内臓脂肪蓄積型肥満)の原因になる(ためアルコール摂取をやめるか大幅に減らす必要がある)という見解で一致しているそうです(『アルコール』の24-25ページ)。

さらに、英国の心臓研究グループによる疫学(引用者追記:病気の原因を、個体が含まれる集団についての情報から統計的手法で推定する学問)調査報告書によると、アルコール消費の客観的指標として最も優れているγ-GTPの値が大きいと、太り過ぎ、糖尿病、心臓死、肝硬変、高血圧、高コレステロール血症、頻脈などのリスクが増大する傾向があり、とくに頻脈(脈拍が毎分100回以上)がある場合を含めて、脈拍数が(標準的なおよそ毎分50~100回より)増加した場合には、太り過ぎ、中性脂肪、総コレステロール、血糖値が上昇するのに加えて、がんのリスクも増大する傾向があるそうです。

さらに、van Barneveld, Seidellなどによる、38歳の男性群のγ-GTP値についての調査によれば、γ-GTP値が肥満(とくに内臓脂肪蓄積型)や血中の中脂肪性脂、総コレステロール、LDL(悪玉)コレステロール、血糖値などと強く正相関し、HDL(善玉)コレステロール/総コレステロール比に対しては高い負相関を示すことが分かったそうです(『アルコール』の25ページ)。

日本ではメタボリックシンドローム(代謝症候群)とは、内臓脂肪型肥満に、①高血糖、②高血圧、③脂質異常症[引用者追記:血液中の中性脂肪(トリグリセリド)や、LDL(悪玉)コレステロールが基準値より高い、またはHDL(善玉)コレステロールが基準値より低い状態]のうち2つ以上の症状が一度に出ている状態のことと定義されています。上記の研究結果から常識的な飲酒によってγ-GTPが上昇した場合には、内臓脂肪型肥満に加えて、高血糖、高血圧、脂質異常症になるリスクも高まるため、メタボリックシンドローム(代謝症候群)を引き起こす可能性が高いことが分かります。



『アルコール』の14ページに載っていた上の図にはコルンフーバー氏が名誉教授を務めるウルム大学があるウルム市の自動車工場に勤める男性約3,000人の拡張期(最低)血圧相対体重(ブローカー指数、つまり身長をcm単位で表示して100を差し引いた値に対する、kg単位で表示した体重の値の比率、110以上なら肥満傾向があるとされます)と年齢との関係(上の2つのグラフ)および、一般的な男性491人(頭痛、腰椎神経根症状の患者)のγ-GTP年齢の関係(一番下のグラフ)が示されています。これから、50歳くらいまでは、年齢が高くなるにしたがってγ-GTP、相対体重、拡張期血圧がともに上昇する傾向があることが分かりますが、これも「常識的な」飲酒の結果と考えられるようです。また、飲酒をしない民族(例えば、南スーダンのマバーン族)では、高年齢にいたるまで、血圧、体重ともに安定しているそうです。

(b)高血圧・・・塩分摂取量を減らしても血圧は下がらないという報告があります

高血圧の主要な原因は、飲酒と肥満、とりわけ飲酒に伴う内臓脂肪蓄積型肥満であるというのがこの本の主張です。日本では、食塩の取り過ぎもその原因とみなされていますが、同書によれば「食塩を取り過ぎると血圧が上昇するという意見は、人口単位の大きな集団調査では証明されていない。我々の調査でも食事中の塩分量で血圧が左右することは見いだせなかったし、ほかの報告者も同様な結果を得ている」(26―27ページ)そうです。

さらに27ページには次のように書かれていました。・・・・・「塩分の影響に関する教科書の意見は、ラットの実験と、異なる住民間の比較に基づいている。そのよい例が、北部日本人と南部日本人の比較である。我々外国人は、北部日本人は南部日本人よりも食塩摂取量が多く、その結果北部日本人には高血圧患者が多いと説明されてきた。」

高血圧は食塩摂取過多が原因となっているという説の根拠の1つに、日本人の食習慣と高血圧患者数が関係しているというのは驚きです。この本では北部日本人と南部日本人は人種的に差があることがその原因であると主張していますが、これは日本人から見るとちょっと実情とは違う気がします。そこで厚労省の「国民健康・栄養調査」および「2017年患者調査」に基づいて、国内で食塩の摂取量が多い都道府県が実際に高血圧患者が多いかどうか調べてみました。

上のグラフは各県の人口1万人当たりの高血圧患者数と塩分摂取量の平均をグラフ化したものですが、一見、緩やかな右肩上がり、つまり食塩摂取量が多いと血圧が高くなる傾向があるように見えますが(相関係数は0.35)、両者間に統計的に有意な相関関係がある(つまり偶然右肩上がりになっているのではない)かどうかを調べてみると、なにかの偶然で右肩上がりになっている可能性は否定できないようです。つまりこのデータから塩分摂取量が多いと高血圧症の患者が増えるという関係があるとは言えないことになります。

これは統計学の有意性検定(間違う確率が1%、つまり有意水準が0.01と想定します)という方法で調べた結果です。有意性検定は、ちょっと難しいので、概略だけをご紹介します。この図に示したデータ数は47(1都1道2府43県)ですが、その場合、このデータについて計算したt値(計算法は省略します)が2.69より大きければ、相関係数は有意である(99%の確率で元のデータに相関がある)と言えますが、このデータの t 値は2.54と2.69を下回っているため、相関があるとは言えないことになります。同様に、このデータについて計算した p 値(間違う確率)による検定も行ってみますと、データ数が47の場合 p 値が0.01(1%)未満なら有意と言えますが、実際のp値は0.0145 と 0.01を上回っています。従って p 値による検定でも、両者間に相関があるとは言えないことになります。

また患者数の全国平均は627人/万人、塩分摂取量の全国平均は9.5グラム/日ですが(ただし、県別のデータの平均で、全人口についての平均ではありません)、人口の多い東京都の塩分摂取量が10.1グラム/日と多いにもかかわらず1万人当たりの高血圧患者数が490人/万人と都道府県中で最低であることから、人口で加重平均すると相関係数はさらに低くなると推定できます。残念ながら加重平均が関係する場合の相関係数を計算するソフトはMicrosoft Excelには見当たりませんでしたので2018年度の都道府県別人口に基づいてExcelを使ってマニュアル計算したところ、相関係数は0.31と、県単位の相関係数0.35より0.04低くなり、塩分摂取量の平均は10.0グラムと県単位の平均9.5グラムをかなり上回り、人口当たりの患者数は618人/万人と県単位の平均を下回ります。また2.69より大きければ相関係数が有意になる t 値は2.21と、県単位の場合の2.54よりもさらに小さくなり、間違う確率を示す p 値は0.032(3.2%)と、県単位の場合の0.0145や有意になる上限である0.01を大きく上回り、元のデータに相関がない確率がさらに高くなります。

このため、日本については、食塩摂取量と高血圧の発症率は統計的に確かな(有意な)関係があるとは言えないことになります。従って、塩分摂取が多いと高血圧発症率も高くなるという関係の根拠の1つが崩れることになります。

高血圧患者が食塩摂取を減らしても血圧は下がらず、アルコール摂取量を減らすと下がったという報告があります

『アルコール』の6ページや28ページに紹介されている介入試験[薬物などの摂取量を変化させてその治療効果を評価する研究]、「男性高血圧患者の治療におけるアルコールおよび食塩摂取制限についての二元要因研究」(Two-Way Factorial Study of Alcohol and Salt Restriction in Treated Hypertensive Men, by Malini Parker, Ian B. Puddey, Lawlence J. Beilin, and Robert Vandongen, Hypertension 16: 398-406 (1990)、インターネット上に公開されています。https://www.ahajournals.org/doi/pdf/10.1161/01.HYP.16.4.398)では、食塩摂取を減らしても血圧は下がらなかったものの、アルコール摂取量を減らすと血圧が下がるという結果が得られました。

この介入試験では63人の被験者をまず通常のアルコール摂取を続けるグループ(通常は自己申告の平均で週557mlの摂取量であるのに対して4週間の試験期間中にもほぼ同量の週543ml)と、飲酒量を減らしたグループ(通常は自己申告で週537mlであるのに対して週57mlに減らした)に分けて、さらに全員の塩分摂取量を1日3.5gまで落とし、両方のグループをさらに2つに分けて、片方のグループには5.8gの塩の入ったタブレット、もう一方には塩以外の無害な食品が入ったタブレット(被験者には区別がつかないようになっていたそうです)を毎日摂取してもらったそうです。その結果、アルコールの摂取を減らしたグループは最高(収縮期)血圧は平均で5.4mmHg、最低(拡張期)血圧は3.2mmHg低下したそうですが、「塩分摂取量を減らした効果はなく、アルコール摂取量と塩分摂取量を両方減らしたことによる相乗効果も認められなかった」そうです。

「日本一の短命県」である青森県よりも「日本一の長寿県」である長野県の方が塩分摂取量が多い


青森県が日本一の短命県(男は1975年以来、女は2000年以来、都道府県別平均寿命で最短を続けています)である理由は何かと聞かれた弘前大学医学部特任教授(元医学部長)の中路重之(なかじ・しげゆき)さんのお答え(下にコピーしました)からも塩分摂取量は健康維持にあまり大きな影響は与えないことが分かります(『朝日新聞』2019年7月27日付、付録「be」の3ページ)。

「塩分の取りすぎ」(が原因)と言う人もいます。確かに(青森県民の)塩分の摂取量は多く、血圧を高くして良くないのですが、これも(日本一の長寿県である)長野県の方がむしろ多いくらいです。・・・青森県でも、がん、脳卒中、心臓病という3大生活習慣病による死亡が多いのですが、長寿県に比べ若死にが多い。死に到る前の20―30年の生活習慣に大きな問題があるわけです。・・・調べてみると、喫煙多量飲酒野菜や塩分の摂取量、運動量、肥満など生活習慣に関わる数値が軒並み悪い。子どもの頃からです。それだけでなく、健康診断の受診率が低いし、病院に行くのも遅い。・・・長野県は逆に塩分以外は大体良い。つまり、平均寿命の差は経済や健康教育も含めた社会の総合力の差なんです。

このご意見も、高血圧の主要な原因は、飲酒と肥満、とりわけ飲酒に伴う内臓脂肪蓄積型肥満であるというこの本の主張を支持するものとなっています。

さらに、食塩摂取量が世界一高い中国北部の人々の血圧は、アルコールを多く消費する欧米人よりも平均して低く、・・・食塩に関する国際比較のデータから太り過ぎの影響を消去すると、もはや食塩による影響というものはまったく存在しない。・・・・いずれにしても、疫学的データや介入試験の成績から、過度な食塩摂取が高血圧の原因になるという証明は得られていない(『アルコール』の27―28ページ)そうです。

ただし、国立がん研究センターの予防研究グルーブによる、どのような生活習慣がどのがんのリスクをどの程度高くするかについての[「確実」、「ほぼ確実」、「可能性あり」、「データ不十分」という4段階の]ランク付けによれば、「食塩・塩蔵物()」と「胃がん」の関係は、「ほぼ確実」とされていますので、胃がんにかかるリスクを抑えるために、塩分の摂取は控えめにしたほうがいいようです[『「がん」はなぜできるのか、そのメカニズムからゲノム医療まで』、国立がん研究センター研究所編、講談社・ブルーバックスの227ページによる、以下では『「がん」はなぜできるのか』]。(注:「塩蔵品」とは長期保存のために食塩に漬けておいた食品のことで、たくあん、梅干しなどの野菜の漬け物、塩鮭、スジコ、イクラ、カズノコ、塩辛、ハム、ベーコンなどの魚介類、食肉の加工品などが含まれます)

(c)心筋梗塞

心筋梗塞の主要なリスク要因が上記の(a)肥満(b)高血圧とされていることから、常識的な量の飲酒でも心筋梗塞を起こすリスクが高まることは予想できます。また、世界には最初からまったく飲酒しない集団があり、これら集団での心筋梗塞の発生率はこの問題についての重要な判断基準になるとみられます。これはちょうど、宗教的理由で肉を食べない集団についての研究が、肉食の健康への影響について非常に重要な情報を提供しているのと同様な関係です。例えば、ベジタリアンの生活スタイルを唱えている「セブンス・デイ・アドベンティスト」という米国のキリスト教プロテスタント系の一宗教組織(東京都杉並区の基幹病院の1つである東京衛生病院はこの組織が運営しています。井伏鱒二の「荻窪風土記」に言及されている「天沼キリスト教会」は、この病院に隣接している同教団の教会のことです。井伏鱒二の住居も病院のすぐ近くで、井伏鱒二はこの病院で息を引き取りました)の信者のうち、肉を全く口にしない(信心深い)ベジタリアンの信者の冠状動脈血栓心臓病による死亡率は一般人の12%にすぎなという非常に明確な関係があるそうです(問題78(健康)答えのa.心臓病の項をご参照ださい)。

実際、禁酒主義で酒を飲まないセブンス・デイ・アドベンティストやモルモン教の信者が心筋梗塞になる危険率はほかの米国人やカナダ人の半分にすぎず、オランダやスカンディナビアの禁酒者たちも(心筋梗塞による)死亡率が低いそうです。平均的なイギリス人についても、「健康上の理由であとから断酒した人たちを除外すると、生まれてこのかたまったく飲酒しない人たちは、すべてのグループのなかで最も循環器系の疾患による死亡率が低いそうです(『アルコール』の45―46ページ)。

さらに最近では、血中のホモシステインの濃度が少量のアルコール消費(1日30グラム)でも危険水準まで上昇する点が注目されているそうです。ホモシステインの血中濃度の上昇は心筋梗塞や脳卒中などの、動脈硬化が原因の発作を生じる危険因子だそうです。さらに、飲酒によって増加したホモシステインは、①動脈を障害して血栓、塞栓などの脳血管障害を起こし、その結果痴呆やアルツハイマー病の発病を増加させるだけでなく、②ホモシステインの直接神経毒性作用により脳萎縮を生じるそうです(『アルコール』の、iiページ、71ページ)。

(d)糖尿病(インスリン抵抗性)

糖尿病とは血中のブドウ糖の濃度(血糖値)が高くなることが原因で起こる病気です。過食、飲酒や運動不足などが原因でブドウ糖の生産にその消費が追いつかない場合に血中のブドウ糖が過剰になります。ブドウ糖が過剰な状態になると、膵(すい)臓のβ(ベータ)細胞がインスリンというホルモンを出します。インスリンは血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されたり、蓄えられるための橋渡し役をしており、その結果として血糖値を下げる作用を持っています。何らかの原因でインスリンが血糖値を下げる効果が低下して血糖値が下がらなくなる病気が糖尿病です(『アルツハイマー病は「脳の糖尿病」』鬼頭昭三、新郷明子著、講談社ブルーバックスの91ページ、以下では『脳の糖尿病』)。

糖尿病には、インスリンが膵臓から出なくなる1型と、①インスリンが不足していたり、②インスリンの量は正常値以上でもインスリンの作用が発揮できない状態だったり、③量も少なく、作用も発揮できていない状態であることがあり、こうした場合には2型と呼ばれています。糖尿病全体の95%が2型だそうです。また、インスリンが量に見合った作用を発揮できない状態(②と③)のことを「インスリン抵抗性」というそうです。血糖値が上昇すると、膵臓は大量のインスリンを出し続けますが、いつも血糖値が高いといつもインスリンが大量に出ている「高インスリン血症」となり、この状態が続くと膵臓のインスリン分泌能が枯渇する方向に傾き、血中のインスリン濃度が低下することになります。そうなると血糖値を抑えるためには、自分でインスリンを注射する必要が生じることになります。

「インスリン抵抗性」が生じると、血中のブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなるだけでなく、肝臓による糖新生(ピルビン酸、乳酸、糖原性アミノ酸、プロピオン酸、グリセロールなどの糖質以外の物質から、ブドウ糖を生産すること)が抑えられなくなり、血糖値が上昇する原因となります。

『アルコール』(32―33ページ)によれば、「インスリン抵抗性を伴う糖尿病前期においても、インスリン値の上昇の大部分が、少量の飲酒者が示す、誤って正常とされているγ-GTP値の範囲内で生じている。内臓脂肪蓄積型肥満が2型糖尿病の主要原因であることは、すでに久しい以前から知られていた。しかし、内臓への脂肪沈着は、大部分がアルコールの毒作用の結果生じるものである。・・・飲酒量の異なる一卵性双生児についてのスカンディナビアにおける調査では、飲酒量の多い方が有意に耐糖能(血糖値が上昇したときに正常値まで下げる能力)が悪く、コレステロールや尿酸値が高く、血圧も高かった」そうです。

糖尿病では血糖値の上昇によって血管組織が強く侵されることが深刻な症状の原因になるようです。糖尿病によって血管が侵されることが原因となった細小血管症(細い血管の血の流れが悪くなることが原因で起こる病気、微小血管障害とも呼ばれる)としては、神経症網膜症腎症の3つが三大合併症と言われているそうです。糖尿病が発症してから5年以降に神経症が、5年から7年以降に網膜症が、10年から15年以降に腎症が発症しやすくなるようです。神経症が悪化すると心筋梗塞、足の潰瘍や壊死(引用者追記:えし、組織が死ぬこと)、から足の切断に至ることもあるそうです。糖尿病性の網膜症から日本では年間5000人程度が失明しており、後天的な失明の最大の原因となっているそうです。糖尿病性腎症による透析患者は10万人以上に達しており、年を追って増加しているそうです。また糖尿病の血液透析は、心臓の血管障害や感染症を起こすことが多いので、透析導入後の5年生存率は約50%だそうです(『脳の糖尿病』の89―90ページ)。糖尿病は最初はあまり深刻な症状は現れませんが、5年10年単位で見れば非常に深刻な病気につながる可能性が高いようです。

細小血管症についても、『アルコール』によれば、「飲酒しない民族はほとんど微小血管障害(細小血管症のこと)が起こらず、そのため、例えば(主として微小血管障害によって生じる)老人性難聴は発生しない」(33―34ページ)そうです。

『脳の糖尿病』(86―87ページ)によれば、日本の糖尿病人口は、1950年の約35万人から、2015年では約721万人と20倍に(年率平均では約5%で)増えていて、予備軍(専門的には境界型糖尿病)を含めると1,000万人と人口全体の8%に達しています。さらに深刻なのが米国で、糖尿病患者数は2,910万人で、65歳以上では人口の半分が糖尿病の予備軍といわれているそうです。そのため米国では糖尿病と予備軍を合計した人口は1億人を超えており、これは人口全体の30%以上となっています。

(e)脳卒中

飲酒がインスリン抵抗性(引用者追記:つまり(d)糖尿病)や(c)高血圧をもたらして、その結果脳卒中に導くことは以前から知られ、また繰り返し確認されているそうです。ただし、脳卒中の主な危険因子は高血圧で、血圧が収縮期(最高血圧)で10―12mmHg, 拡張期(最低血圧)で5―6mmHg下がると、脳卒中の頻度が約40%も減少するそうです(『アルコール』の35ページ)。

また、高血圧やインスリン抵抗性は、数年続くと血管を変化させ、たとえ飲酒をやめたとしても、もはや完全には回復しない。したがって薬物療法に際しては、高齢者といえども血圧は正常値にまで下げるべきであり、とくに拡張期(最低)血圧は80mmHg以下にする必要があるそうです(『アルコール』の36ページ)。

また、『脳の糖尿病』の104―105ページによれば、糖尿病の人の70%は同時に高血圧でもあるそうです。さらに、この2つの病気を同時に持っている場合には、脳卒中、脳梗塞などの脳血管性の病気ゃ心臓の病気になるリスクが4倍から6倍になり、さらに過去にこれらの病気を患った経験のある人が再発する可能性も同時に4倍から6倍になるそうです。

(f) がん(大腸がん、食道がん、咽頭がん、口腔がん)

米国やドイツではアルコールは「発がん物質」であると認定されています(『アルコール』の49ページ)が、日本ではなぜか認定されていないようです。それでも、厚労省のホームページには、「WHOの評価では飲酒は口腔がん、咽頭がん、食道がん、肝臓がん、大腸がん、乳がんの原因になるとされています。・・・アルコールと(アルコールから体内でアルコール脱水素酵素(ADH)の作用によって生成され、強い毒性を持つ、アセト)アルデヒドには発がん性がある・・・」と書かれています。

国立がん研究センター研究グループによる調査では、アルコール(飲酒)はがんの原因のうち、喫煙(能動)、感染性要因に次いで3番目に重要な要因となっています。男性の場合、飲酒量が相対的に多いこともあって、がん発症の9.0%、男性より飲酒量の少ない女性では同じく2.5%が、全体では同じく6.3%が飲酒が原因とみられています。

「がんの原因」

出所:国立がん研究センター研究所編『「がん」はなぜできるのか』の84ページからコピーさせていただきました。

飲酒は肝臓がん、大腸がん、食道がんと強い関連があり、多量の飲酒はこれらのがんのリスクを高めることはよく知られています(『「がん」はなぜできるのか』の228ページ)。さらにハワイでは、1日あたりアルコール1―10ml程度の少量飲酒者でも、まったく飲まない人よりも、がんの発生率が高いことが確認されているそうです。とくに乳がんについては、1日あたりアルコール5gといった少量飲料者でも発生率が高まるとされています。また1999年にWHOが同意声明を出した国際研究機関の報告では、わずかのアルコールでも大腸がんや直腸がんを発生させる可能性があることが強調されているそうです(ともに『アルコール』の49ページ)。同じページには下記のように書かれています。

「酒類がまったく飲まれていない社会、たとえばモルモン教徒の社会を見てみると、彼らの・・・・がんによる死亡率も(ほかのアメリカ人やカナダ人の)約半分である。とくに口腔がん、食道がん、気管支がん、結腸がん、直腸がん、膵臓がん、乳がん、肺がんなどによる死亡率が低い」

とくに妊娠中の女性が飲酒することは、生まれてくる子供のために絶対に避けるべきで、(アルコールは生まれてくる子供の)幼児期の急性白血病や(小児がんのうち白血病に次いで患者数の多い)神経芽細胞腫の有意な危険因子だそうです(『アルコール』の51ページ)。さらに同書の53ページとiiiページには次のように書かれています。

「アルコールやアセトアルデヒドのような細胞毒は、成人ではがんを引き起こすが、体形成途上の胎児の期間にはもっと深刻な影響を与える。とくに女性は胃中にアルコール脱水素酵素が少ないためアルコール分解能が悪く、胎児への影響は想像を超えたものとなる。子供たちの学習障害の多くは胎児性アルコール症候群の軽度な発現型であり、その形成には多量のアルコールを必要としない。ドイツの教科書には書かれていないが、妊娠中に1日8分の1リットルのワインを毎日飲み続けると、生まれてくる子供の知能が低下する可能性がある。そのためアメリカの厚生省は、妊婦は一滴の飲酒もしてはならないと警告している。今日みられる重度胎児性アルコール症候群は、かつて出生前診断が発達していなかった時代に診断され、先天性学習障害の最大の原因とされたダウン症候群の2倍の頻度でみられ、出生300人に1人がこれに該当する。・・・胎児性アルコール症候群は、先天性精神遅滞(精神薄弱)の最大の原因になっている。」

また、「アルコールとがんの関係が明らかに、DNAを損傷、二度と戻らない状態に」(『ニューズウィーク日本語版』、2018年1月9日付)という記事によれば、英ケンブリッジ大学の研究チームが、マウスにエタノール(アルコールのこと)を投与したところ、エタノールが造血幹細胞のDNA二重鎖を切断して、細胞内のDNA配列は、元に戻らない状態に壊されてしまうことを発見したそうです。これによって、アルコールによるがん発生のメカニズムが説明可能になったそうです。

さらに、この記事によれば、英国のがん研究所は、アルコールとの関係が特に指摘されているがんの種類として口腔がん、咽頭がん、食道がん、乳がん、肝臓がん、大腸がんを挙げており、そのリスクは、ワインやビール、蒸留酒などアルコールの種類とは無関係で、飲む量についても「がんに関して安全な飲酒量などはない」と断言しているそうです。

g) アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症の危険因子には、(1)遺伝子ApoE4[コレステロールの運搬に関係するタンパク質をつくる遺伝子ApoEで、アミノ酸配列が異なる4種のうちの1つ]の不足(2)エストロゲン[女性ホルモンの一種]の不足(3) 高血圧(4)糖尿病の説明で言及した高インスリン血症(5)年齢などですが、これらはともに((d)糖尿病の説明で言及した細小血管症と同義の)微小血管障害の原因であり、脳血管の微小血管障害はアルツハイマー型認知症につながり、これに(a)メタボリックシンドローム(代謝症候群)が加わると危険性が急速に増大するそうです(『アルコール』の36ページ)。

アルツハイマー病は脳の糖尿病といわれるほど、糖尿病と密接なつながりがあります。1988年から福岡県久山町の60歳以上の男女1,017人を対象にして15年間実施された追跡調査では、予備軍を含む糖尿病患者ではアルツハイマー病に罹患するリスクが、非糖尿病患者の2倍にのぼることが報告されています(『脳の糖尿病』の113ページ)。これは第1に、上で触れたように糖尿病患者は脳の微小血管障害を起こす可能性が高く、第2にアルツハイマー病で最も早期に、最も強く侵される脳の海馬でインスリンもつくられており、インスリンは脳の代謝で不可欠なブドウ糖を海馬に送り込む働きをしていて、インスリンが不足すると脳にとって必要なブドウ糖が不足することになり、海馬の活動が低下するとみられます(『脳の糖尿病』の118ページ)。第3にインスリンは記憶物質でもあり、通常は血液脳関門を通過して、脳で作用を発揮できますが、糖尿病の説明で触れたインスリン抵抗性の状態になると、インスリンが脳の中に入るのが難しくなり、記憶物質として機能するのも難しくなります(『脳の糖尿病』の120ページ)。第4に糖尿病になると、インスリン分解酵素(IDE)の活性が低下するそうです。インスリン分解酵素は、過剰なインスリンを分解するだけでなく、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパクも分解する作用も持っています。ところがインスリン抵抗性による高インスリン血症の状態では、インスリン分解酵素はインスリン分解のために大量に消費されるため、アミロイドβタンパクの分解ができなくなり、アルツハイマー病の発症に拍車がかかるそうです(『脳の糖尿病』の122ページ)。

飲酒する人は未来には少数派になっていく

これで答えの説明はおしまいですが、クイズ作りのためもあって過去1年間半くらいの間、断続的とはいえ専門家向けとみられる『アルコール』を理解しようと勉強してきました。その途中の2019年6月1日に断酒に踏み切りました。早いものでアルコールを一滴も飲まない断酒生活を開始して以来1年になりましたたが、血圧が目立って下がり、長年患っていた脂肪肝や慢性色素性紫斑という老人性の皮膚病も(断酒のせいか、漢方薬治療を開始したせいか分かりませんが)治ってしまいました。問題はパーティに参加すると割り勘負けすることですが、これは必要経費と考えて割り切ることにしています。いまのところ断酒のメリットは大きいと感じています。

身の回りを見回してみると、私が存じ上げている弁護士の方はほとんどお酒は飲まれないことに気がつきました。不思議なことに、存じ上げている弁護士の方々のうち、裁判官や検事を退職されて弁護士をされている方は飲まれるようですが、それ以外の弁護士の方は皆さん飲まれないようです。欧米では交通事故の3件に1件、死亡事故の2件に1件が飲酒が原因で発生しているといわれ、事故、暴力、自殺の直接的、間接的原因として飲酒が最も大きく関係しているとの指摘もある(『アルコール』の訳者の前書き)ことから、法律家は飲酒の怖さを知っているためなのかもしれません。

米国では、80年以降に生まれたミレニアル世代を中心にあえて酒を飲まない「ソバーキュリアス」(飲まないことを好む、sober しらふ、curious ・・・に興味がある)という人々が増えているそうです(「しらふで生きる、酒を断ちみえるものとは」『朝日新聞』2020年2月11日付)。この記事によれば、ニッセイ基礎研究所の久我尚子・主任研究員は、この動きについて「ミレニアル世代は効率を重視する傾向が強い。酒による快楽と、費やされる時間やお金の大きさ、自己を制御できなくなるデメリットなどを比較し、コストパフォーマンスが低い娯楽と判断しているのでは」とみているそうです。

ベストセラー「ぼくたちに、もうモノは必要ない」の著者である佐々木典士さんも3年前に酒を断ったそうですが、「激減した喫煙者のように、飲酒する人は未来には少数派になっていく」と予想しています。外国人投資家が最も注目している日本企業の代表とも言える日本電産の創業者である永守重信会長は、かつては大のビール好きだったそうですが、仕事に専念したいという理由で、45歳だった20年前に断酒し、現在も続けており、健康だそうです。

断酒をしたいと思われた方にぜひ読んでいただきたいのが、作家の町田康さんが書かれた『しらふで生きる』(幻冬舎刊)です。町田さんによれば、断酒するためには、「自分を普通以下のアホ」と捉え直すといいそうです。というのは、酒を飲む理由の1つが「このえらいオレがなんで報われぬのか」という不満の解消であるためだそうです。この本によれば、断酒のための認識改造の第一歩は、

「自分は普通の人間である。普通の人間の普通の人生はそもそも楽しくないものである」(134ページ)

ということの認識だそうですが、最終的には、

「そもそも人生は苦しいもの、と(認識を)改めるべきなのだ」(128ページ)

そうです。この境地は問題44(生き方)でご紹介した実存主義の考え方と重なります。(2020年6月6日)

〔2021年7月3日追記〕・・・「ソバーキュリアスのトレンドが日本でも浸透しつつある」・・・・『朝日新聞』(7月2日付、10面)の経済気象台という連載コラムの「ソーバーキュリアス」(引用者追記:googleで調べると、本文の中で書いた「ソバー・・・」という表記と、この連載コラムのタイトルで使われた「ソーバー・・・」という表記の両方があるようですが以下では「ソバー・・・」に統一します)という記事によれば、「健康志向を背景に、お酒をあえて飲まないか少量しか飲まないソバーキュリアスというトレンドがある。欧米で広がっているそうだが、日本でも浸透してきている」そうです。実際、厚労省の調査によれば2000年から2019年の20年間で、習慣的に飲酒する20代男性は27.8%から12.7%に、30代男性は53.3%から24.4%へと」ともに半分以下になったそうです。特に20代男性では約8人に1人にまで減ったというのは意外でした。また「ノミニケーション」は、在宅勤務の増加によって過去の遺物となり、「従業員とのコミュニケーションを(引用者追記:酒に頼らない方法で)きちんと設計しなれば、企業の求心力や従業員の帰属意識に問題が出るだろう」と指摘されています。

私は個人的に21世紀はアルコール撲滅運動の世紀になるのではないかと考えています。19世紀から20世紀初頭にかけては深刻な悪影響をもたらす麻薬の撲滅運動が活発化して現在では大半の国で麻薬は規制下にあります。ところが、19世紀には多数の人がアヘン(阿片)などの麻薬を摂取していたようです。19世紀のフランスの詩人、ボードレール(1821-67)も阿片常用者だったようで、代表作である『悪の華』という詩集には「毒液」という詩があり、その中では阿片が礼賛されているとも言える箇所があります(第2段落)。

阿片は、そもそも埒(引用者追記:らち、つまり境界)のないものをさらに広げ、
     無限界のものをさらに展延し、
時間を深め、肉の悦びをさらに奥深まったものにし、
     そして暗く、くすんだ快楽によって、
魂をそもそもの容量を超えて一杯にみたす。

翻訳は杉本秀太郎氏によるもので、『悪の花、注釈』(京都大学人文科学研究所、多田道太郎編)から引用させていただきました。wikipediaのケシの項目には『悪の華』は、アヘンの原料となるケシの花のことを指すというという説があると書かれていますが、この説は誰の説なのか確認されていないようです。

20世紀にはたばこの規制が大きく進展して、現在では、ほとんどの先進国で喫煙は公共の場所では基本的に禁止されるようになりました。〔禁煙運動の成果については、問題2(健康)問題39(健康)最近気付いたこと「アイルランドの禁煙事情と当日券でセンターコートに入れた話」風景写真アルバム浜松町駅前の喫煙所もご参照ください。〕

21世紀に取り組むべき課題は、最近その毒性が明確になったアルコールの規制であると私は考えています。テレビでは、ビールなどの酒類のコマーシャルが異常な頻度で放送されていますが、この辺の規制が出発点になるのではないかと思います。問題は、たばこの場合よりも、飲酒は、病気との因果関係の証明が難しいとみられる点です。この問題は、飲酒の習慣を持った人が多いために、上で触れたγ-GTPの基準値のように、飲酒することが前提となって健康状態が判断されていることが一因となっているとみられますが、飲酒者の減少にともなって、飲酒の弊害がより明確化することが期待されます。また、酒造メーカー、飲食店業界などの反対も非常に強いと推定できるため、たばこの場合同様に、アルコール摂取規制の実現には相当の期間が必要になるとみられます。


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