問題24(数学)の解答が載っている本を守川穣様がお教えくださいました

このホームページの開設1周年を記念して98年9月に、5,000円というささやかな賞金付きで一般から解答を募集した問題24(特別クイズ、数学)には、「形の科学会」会長の筑波大学物理工学系教授 小川 泰先生が正解をお寄せくださったことは、問題文や、「最近気付いたこと」の「問題24についての小川教授のコメント」にもご紹介させていただきました。問題は、正多面体の対称面の数を計算する式を考えていただくというものでした。ただ、小川先生のお答えは、私が考えていた答えとは異なり、私のものよりも非常に簡単な式でした。また、その式が正しく対称面の数を与えることは分かるのですが、なぜその式によって正解が与えられるのかが分からないまま4年が過ぎてしまいました。

ところが、福井工業高等専門学校教授、電子計算機室長を歴任されたあと、数年前に定年退官された守川穣様が、今年9月1日に次のようなメールをお寄せ下さいました。ご本人のお許しを得て、以下に転載させていただきます。


問題24は,4年近く前の問題ですが,「小川先生のコメントに対する印象」の個所に書いてある事項は,その後,進展しましたか.

「印象 2」で,「(2,0),(0,4)の記法の意味がよくわかりませんでした」と書いておられますが,これはコメントに書いてある通りで,(2,0),(0,4)は次のことをあらわしています.

     正6面体(立方体)の対称面(2種類があります)

対称面に含まれている稜の数 対称面に直交している稜の数
切り口が長方形の対称面 2個 0個
切り口が正方形の対称面 0個 4個

 他の正多面体の場合も,同様な記法が用いられています.

「印象 3」
     小川先生の式

     対称面の数=3・(対称面による切り口の線分の数−1)

は,ペトリー多角形の性質を用いて証明出来ます.一松信(ひとつまつ しん)著,「高次元の正多面体」,日本評論社,1983,pp.5−12 に証明が書いてあります.


守川穣様は、現在でも、正多面体に関連した(正確には、正多面体の4次元版である正多胞体(の3次元空間への投影)についての)研究を続けられており、その成果をご自身のホームページ( http://www.h4.dion.ne.jp/~morikawa/ )に公開されています。グラフィックス・ソフトについてのご著書(『2&3次元グラフィックス・ソフトの基礎と応用 パソコンによるコア・システムの実現とその活用法』CQ出版社刊、『PC-9801 3次元グラフィックス入門』アスキー出版局刊など)もあります。

ご紹介いただいた、一松信著、「高次元の正多面体」は絶版となっていました。このことを守川先生に申し上げましたところ、この本だけでなく、同じ著者の「正多面体の対称性」(共立出版の『蟻塔』に1992年に掲載されたものが、高次元科学会のHyperSpaceに収録されたもの)という論文から、関係のある部分のコピーを取って下さり、さらの必要な個所が分かるような添え書きをしていただいたものをお送りくださいました。また、同じく、一松 信著、「正多面体を解く」(東海大学出版会刊)という本が入手可能でしたので、これらで、正多面体について勉強し直してみました。

その結果、次のようなことが分かりました。(1)私の思い付いた式も小川先生の式も、ともに「高次元の正多面体」にそれぞれの証明を含めて載っていて、(2)私の思い付いた式の証明は、「高次元の正多面体」に載っている証明とほぼ同じで、(3)小川先生の式を証明するためには、ペトリー多角形(あとから説明します)の性質を用いる必要があります。

以下で、「高次元の正多面体」に載っていた小川先生の式の証明をご紹介します。これらはかなり複雑ですが、幾何学の基礎を知っていれば、理解可能な内容です。ひまをお持ちの方は、挑戦してみてください。


小川先生の式の証明

以下の証明では、いろいろな変数について、私が勝手に決めた記号を使うのはやめて、標準的な記号を使うことにしました。小川先生もおっしゃっているように、正p角形q個が各頂点に集まって、正多角錐(ただし、普通の多角錐のように底は平らとは限りません)を形成している正多面体は、(p,q)と表されます。この表記を使うと、正4面体は(3,3)、正6面体は(4,3)、正8面体は(3,4)、正12面体は(5,3)、正20面体は(3,5)と表されます。



また、頂点(vertex)の数はV、辺(edge)の数はE、面(face)の数はF、対称面の数はm、対称面の辺数(辺の数)はL(正式には小文字が使われているようですが、見にくくなるため大文字にしました)、ペトリー多角形の辺数を h,その個数を n という記号を使うことにします。ペトリー多角形とは、正多面体の各辺の中点と、その辺の両端の頂点につながっている辺の中点を結んだ線をつないで作られる平面上の正多角形で、正多面体の中心を含んでいます(四角形や五角形の向い側の辺の中点と結んだ線は含まれません)。各正多面体のペトリー多角形が上の図に斜線を引いた面として示されています(この図は「正多面体の対称性」からコピーさせていただきました)。ペトリー多角形は正多面体の対称面ではありませんが、正多面体をこの面で切断して、2π/hだけ回転させると面対称になるという性質を持っているそうです(このような面は回映面と呼ばれるそうです)。

正多面体 p q V E F m L h n
正4面体 3 3 4 6 4 6 3 4 3
正6面体 4 3 8 12 6 9 4 6 4
正8面体 3 4 6 12 8 9 4 6 4
正12面体 5 3 20 30 12 15 6 10 6
正20面体 3 5 12 30 20 15 6 10 6

この表から対称面の数mについて、

 m = 3(L - 1), m = 3pF/2L

が成り立っていることがわかります。最初の式が、「小川先生の式」で、次の式が「私も思い付いた式」に相当しています。実用的には、表を利用するのが一番簡単で、つぎは上記の式を用いればよい訳ですが、何故そうなるかを証明するのも、面白いと思います。ここでは「小川先生の式」を、一松先生の本にもとづいて証明してみます。証明には、m = 3pF/2L の式も用いています。

ペトリー多角形の辺数 h と 正多面体の辺数 E の関係


正多面体の各辺の中点の一つを B 点とし、正多面体の中心を O 点とします。B 点を通るペトリー面は、2枚しかないことが左の図から分かります(この図は、「正多面体を解く」の45ページからコピーさせていただきました)。また、O 点について B 点と対称な位置に、別の辺の中点があります。

したがって、一つのペトリー多角形の相対する一対の頂点にそれぞれ1枚ずつ別のペトリー多角形があることが分かります。そのため、一つのペトリー多角形の相対する一対の頂点(h/2組)に、他のn-1枚のペトリー多角形の頂点が交わるので n-1=h/2となります。

n = (h/2) + 1 ----- (1)

また、すべてのペトリー多角形の頂点の数を合計すると、正多面体の中点の数(=辺数)の2倍(一つの中点を2枚のペトリー面が通るため)となります。

nh = 2E ----------(2)

(2) の n に (1) を代入すると。

[(h/2) + 1]×h = 2E

両辺を2倍すると、

(h + 2)h = 4E ------(3)

が得られます。

対称面の数 m とペトリー多角形の辺数 h の間の関係

ペトリー多角形と正多面体の対称面はともに中心を通るため、必ず交わります。二つの面の交線はペトリー多角形自身の対称軸なので、それと正多面体の表面の交点は、正多面体の辺の中点または、隣り合う辺の中点を結ぶ線分の中点、つまり下の正6面体の例(この図は「高次元の正多面体」の13ページの図に一部書き加えたものをコピーさせていただきました)では、AC と BB'の交点(H)のいずれかです。

ペトリー多角形の各頂点、つまり正多面体の辺の中点(この場合Bを考えます)を通る対称面は2枚ずつあります(AFEDとBGJK)。ACとBB'の交点Hを通る対称面は、ACを含む1枚(AUER)のみです。ただし、ペトリー多角形の相対する一対の点は同じ対称面に対応しますので、対称面の数 m は

m = (2h + h)/2 = 3h/2 ------ (4)

と求まります。
ここて゛、私も思い付いた対称面の数についての式を、標準的な記号で書くと、

m = 3pF/2L  ------ (5)

となります。各面がp角形、各頂点がq角錐の多面体では各面に辺がp本ずつあり、各辺は2面ずつに共通ですから、次式が成り立ちます。

pF = 2E ------ (6)

(5) のpF に (6)を代入すると、

m = 3E/L --------- (7)

が求まります。これと(4) から、

3E/L = 3h/2

これを変形して、

Lh = 2E ----------- (8)

が求まります。

(3)式の両辺を(8)式の両辺でそれぞれ割ると(0でないため割れます)、

(h + 2)/L = 2

変形して

h = 2L -2 = 2(L - 1) -------(9)

が求まります。これを(4)に代入して。

m = 3(L -1)

という小川先生の式が得られます。

ここでは、説明用に上で示した正6面体(立方体)の図を用いましたが、導いてある関係式は、すべての正多面体について成り立ちます。


守川先生、ご親切にこの問題の答えが載っている本を教えていただいただけでなく、コピーを取って、分かりやすい添え書きまでしていただいたものを送っていただいて本当にありがとうございました。先生には、お礼を差し上げたいと申し上げたのですが、固辞されましたので、残念ながら、心からお礼を申し上げるだけとさせていただきます。

私が考えついたと思っていた式が、市販の教科書に載っていたとは、残念な面もありますが、数学はさすがに奥が深いということが分かりました。

また、一松 先生の教科書を読んで、一番面白いと思ったのは、オイラーの公式でした。表面に穴やへこみのない多面体(凸多面体)については、

(頂点の数 + 面の数 ) = 辺数 + 2 

上の記号を使うと、

V + F = E + 2

という極めて簡単な式が成り立つという点です。これは、三角形を厚さのない立体(頂点が三つ、面が二つ、辺が三つ)と考えて、これについてこの式が成立していることを確認して、さらにこれを組み合わせていろいろな立体を作ることによって証明することができるようです。こんな簡単な関係が成立していて、しかも学校では全く教えられていないというのは、おかしい気がしました。また、こんな初歩的な式も知らないで多面体について偉そうなことを言っていたというのは、お恥ずかしい限りです(2002年10月28日)。


守川先生からメールをいただきました(2002年11月4日追記)

「小川先生の式」の証明をホームページに掲載したことを守川先生にご連絡しましたところ、問題点や、書き直した方がいい点などをメールでご親切にご連絡くださいました。本文で訂正が必要な個所のうち、私がすでに気付いて訂正していた個所以外の部分を、先生のご指摘に基づいて訂正させていただきました(訂正個所は青字になっています)。また、オイラーの公式についてのコメントもいただきましたので、以下でご紹介させていただきます。


ここでのオイラーの公式は、一般にはオイラーの多面体公式と呼ばれています。ポアンカレーはこの公式を、一般の次元の場合に拡張していて、拡張された公式はオイラー-ポアンカレーの公式と呼ばれています。点、辺、面、...の数を、N0,N1,N2,...として、

2次元では N0−N1=0,
3次元では N0−N1+N2=2,
4次元では N0−N1+N2−N3=0,...

となります。3次元の場合の証明でよく用いられているのは、四面体からはじめて、次々に頂点を増やしていく方法です。


以上が先生のコメントです。

守川先生、ホームページを詳しくみていただき、しろうとの至らない点をいろいろと教えていただいて、どうもありがとうございました。

最後に、私が自分で式を思い付くきっかけになった話をご紹介します。こんな式を考えたのは、30年以上前の大学時代に小学6年生の家庭教師をしていて、算数の問題に出てきた正8面体の対称面の数を間違って教えてしまったことがきっかけでした。正8面体の対称面が9枚もあることを、実際に数えるのはけっこう難しい作業です。そこで、もっと簡単に数える方法はないか必死に考えて、思い付きました。その後、ゼミで理論物理学の堀教授に、この式のことを申し上げたところ、「おもしろいんじゃない」と言ってくださいました。

今でも、対称面の数のことを小学校で教えているのかどうか知りませんが、立体の問題が学校で教えられる機会は減ってきているという話をよく聞きます。幾何学だけでなく、算数の教育レベルは全般に著しく低下しているようです。超一流大学の学生が小学校程度の分数や小数点の問題ができない例が多い(これについては、問題45(教育)およびその解答の最後の部分をご参照ください)などという話を外国人にすると、一様に信じられないという言葉が返ってきます。

ニューヨーク在住のある友人によれば、最近では日本からニューヨークの学校に編入してきた日本人の小学生が、米国の算数の授業についていけなくて苦労しているそうです。つい数年前までは、日本人の子供は、ほとんどの教科は苦手でも、算数だけは勉強する必要がないなどという話がよく聞かれましたが、現在では、算数でも置いていかれる子供が続出しているそうです。偏向歴史教育と道徳教育にエネルギーを浪費している日本の初等教育の水準の低下は、国際的にみてもはっきりしてきたようです。さらに、一般教科の授業時間が3割もカットされ、「総合的な学習の時間」という基礎学力との結び付きがはっきりしない授業が2002年度から全面的に導入されたため、この傾向はさらに加速するのではないでしょうか(2002年11月4日追記)。


コンピュータ・グラフィクスによる各正多面体の対称面とペトリー多角形の画像を守川先生をお送りくださいましたので、「最近気付いたこと」の正多面体のコンピュータ・グラフィクス画像に掲載しました(2003年5月10日追記)。

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