コロナウイルスのワクチンを開発したカタリン・カリコ博士は今年のノーベル賞の有力候補

これまでに世界人口の4.1%(3億2,470万人)が新型コロナウイルスに感染し、0.07%(555万人、ともに1月15日現在)がそのために死亡しましたが、新型コロナウイルスの感染拡大抑制に極めて重要な役割を演じているのがワクチンです。ファイザーとドイツのビオンテックが共同開発したワクチンの治験によれば、接種しなかった場合の感染者数は接種した場合の感染者数の約8倍であったため、世の中にワクチンがなかったとすれば感染者数や死者数は、これまでの感染者数実績の数倍に上っていたとみられます。そのためこのウイルスを開発したカタリン・カリコ博士(Dr. Katalin Kariko)と共同開発者のドリュー・ワイズマン博士(Dr. Drew Weissman)は今年のノーベル賞の有力候補となっています。以下では、『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)に基づいて、カリコ博士の業績と生い立ちをご紹介します。

画期的なワクチン

コロナウイルスのワクチンは、 メッセンジャーRNA(mRNA)という核酸の一種を利用して作られてるためにmRNAワクチンと呼ばれています。これまでのワクチンは弱毒化したウイルスを使用して作られる生ワクチンと、感染性をなくしたウイルスを使用して作られる不活性ワクチンの2種類しかありませんでしたが、ともに開発には10年以上はかかると言われているそうです。これに対してmRNAワクチンはウイルスの流行が2020年2月初旬に始まってから2カ月後には完成して、臨床試験が開始され、11月には第3相の治験で有効性と安全性が確認され、2020年12月にはFDAが緊急使用許可を行い、その後数万人規模の治験を経て2021年8月に正式承認されました。

この表は『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』(ポプラ新書)141ページからコピーさせていただきました。

固い信念に基づく長年の努力が結実

カリコ博士はハンガリー生まれの女性で、過去40年間にわたってmRNAの医薬品への応用の研究を続けてきました。最近まで、人工的に作ったmRNAを体内に入れると異物が入ってきたと身体が認識してしまって細胞がそれを拒絶し、激しい炎症反応を引き起こし、細胞も死んでしまうため、mRNAを使った薬を実際にヒトに投与する臨床実験は不可能だと考えられていました。カリコ博士は、こうした否定的な見方にもかかわらず過去40年間mRNAの開発を続け、その影響もあって、ハンガリーでは研究を続けられなくなり、移住した米国で得た研究職も非正規職員であるなど大変な苦労を重ねました。

ところがカリコ博士と共同開発者のワイズマン博士は、2つの処理を行うことによって炎症反応をおさえることが可能となることを発見しました。1つはmRNAを構成するウリジンという物質をシュードウリジンという物質に差し替えるという処理、もう1つは、mRNAを脂の膜で覆うという処理で、この技術の関連特許は2012年に所属していたペンシルベニア大学が取得したものの、大学はその後その特許を売却してしまいました。


上の表は『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』の121ページからコピーさせていただきました。

その後カリコ博士は2013年に、ファイザーと共同でコロナウイルスのワクチンを2020年に開発したドイツのビオンテック社のバイス・プレジデントに就任して研究を続けましたが、そのことが今回の成功につながりました。

ハンガリーの教育システムの成功例


カリコ博士に生い立ちについても、『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』に詳しく紹介されています。物に加えられた力のことを意味する物理学用語のストレスを、今日日常的に使われているストレス(「外部環境からの刺激によって生物に起こる歪みに対する非特異的反応」)という意味で初めて使った世界的な生理学者のハンス・セリエ博士や、ビタミンCを発見してノーベル賞を受賞したセント・ジュルジ・アルベルト博士などと、カリコ博士は教育の一環として高校時代から文通していたそうです。ハンガリーの教育システムもカリコ博士のような学者を生み出す原動力になったように感じました。

カリコ博士は第26回(2021年度) 慶應医学賞を受賞されました。その 受賞記念講演ウェビナーが2月15日に開催される予定です(大半の読者の方にとっては、この記事を読まれる前に講演は終わってしまうことになることをお許しください。幸い、講演の画像は今後you tube で公開される予定だそうです。ただし講演は英語で通訳は付かないそうです)〔2022年2月14日〕。

受賞記念講演のパンフレット。


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