「核燃料サイクル施設」と「もんじゅ」が事故を起こせば、被害規模は原発事故の比ではない

福島第一原子力発電所の事故の規模は、国際原子力機関(IAEA)の評価尺度でレベル7と人類史上最大級となり、「MINAMATA」が深刻な公害事件の代名詞として世界中で通用するようになったのと同様に、「FUKUSHIMA」は巨大原発事故の代名詞の一つとなりました。政府、自民党、経済産業省、電力会社、御用学者が絶対安全と言ってきた原発の崩壊、爆発によって放出された膨大な放射性物質によって、原発周辺地域では居住が不可能となり、300km以上離れた東京や千葉でも、毎時1マイクロ・シーベルト以上という、平常時の10倍以上の放射線量が観測される場所も出てきました。

これだけ甚大な被害を引き起こす危険極まりない原子力発電所を、地震の巣とも言える日本列島に設置することの矛盾が、今回の事故によって広く認識されるようになってきました。ところが、あまり知られていませんが、青森県六ケ所村の「核燃料サイクル施設」と福井県敦賀市の高速増殖炉、「もんじゅ」が事故を起こした場合の被害規模は原発の比ではないようです。

過去一貫して反原発のスタンスを保ってきた、週刊誌、『週刊金曜日』は、2011年4月27日に過去の原発関連の記事を再掲した臨時増刊「原発震災」を発刊しました。この中の「列島崩壊の原発事故が起きる」という12年前(1999年8月27日号)の記事(56―59ページ)に二つの施設が事故を起こした際の被害規模のことが書いてありましたのでご紹介します。この記事は、ノンフィクション作家の広瀬隆(ひろせ・たかし)氏と、弁護士で日本弁護士連合会エネルギー・原子力部会・部会長の海渡雄一(かいど・ゆういち)氏の対談をまとめたものです。

青森県六ケ所村・核燃料サイクル施設で大事故が起これば日本は壊滅

核燃料再処理施設とは、原発で使われた燃料を廃棄したり、再利用するための処理を行う施設です。この施設の中で特に危険なのは、「使用済み核燃料の再処理工場」だそうです。海渡氏は次のように指摘しています(58ページ)

この工場では「高レベルの放射性廃棄物を液体で扱うことになります」・・・「高レベル放射性廃棄物の毒性は、そばに立っているだけで人が即死するほど強い」・・・「施設内を縦横に流れることになるこの液体は、強い放射能を持つだけでなく、化学的に爆発する危険性も持っています。・・・爆発事故が起こればどうなるか。原子力資料情報室の高木仁三郎さん〔引用者追記:日本の反原発運動の先頭に立って活躍された物理学者ですが、2000年にガンで亡くなられました〕によると、わずか1%の放射能が放出された場合でも、下の図(同書59ページからコピーさせていただきました)のように青森県や北海道の一部で全員避難が必要となり、仙台までの東北地方や札幌を含む北海道の半分以上で乳幼児や妊婦の避難が必要な汚染レベルとなります。10%の放出では、単純に言えば10倍ですので、仙台や札幌でも全員避難となります。」



さらに広瀬氏は次のように指摘しています。

「(旧)西ドイツの原子炉安全研究所の試算では、使用済み核燃料プールと高レベル廃液貯蔵タンクで事故が起きたときには、事故発生源から1万キロメートル離れないと瞬間致死量(600レム、〔引用者追記:6シーベルトと同じ被ばく量。詳しくは問題87(メディア)の答えをご参照ください〕)を回避できないとなっています。東京―青森間は約600キロメートルですから、大事故が起これば日本は壊滅しますね。」

福井県敦賀市・高速増殖炉「もんじゅ」で大事故が起これば100万人単位が死亡

「もんじゅ」についても海渡氏はつぎのように指摘しています。

「もんじゅは原子炉の冷却材に金属ナトリウムを使っており軽水炉よりも約200度高い温度で運転されています。ところが、この高温対策と地震対策は矛盾するのです。配管の中と外の温度差によるひずみ(熱応力)を少なくするためには配管を薄くしなければなりません。しかも熱による膨張分を余裕としてもっておかなければならないので、もんじゅ内部は配管が八岐大蛇(やまたのおろち)のようにのたくっている状態です。だから必然的に地震に弱くなる。・・・もし、地震で配管が破断して炉心の冷却ができなくなったら、もんじゅでは炉心のメルトダウンだけでは終わりません。溶けたプルトニウムがまとまると再臨界に達して爆発し、原子炉そのものが木っ端みじんに砕け散る恐れがある。小型のプルトニウム爆弾になると考えていいのです。」

さらに広瀬氏は次のように指摘しています。

「もんじゅの炉心には、長崎型原爆に換算しておよそ200発分のプルトニウムがあります。最悪の想定では、大阪や名古屋が壊滅し、100万人単位の死者が出るでしょう。再処理工場の重大事故と同じように、半永久的に国土の回復ができなくなります。」

以上が引用です。高速増殖炉は、消費する以上の核分裂物質を生産するというの特徴のため、「夢の原子炉」ともてはやされた時代もありました。その概念は、1945年に物理学者のエンリコ・フェルミによって提案され、その後、1946年には、米国で最初の実験炉が完成し、その後、イギリス、フランス、ドイツ、旧ソ連がこの開発レースに参加しました。しかし、危険性が高く、稼働が安定しないため、各国で反対運動が活発化しました。1976年には、フランスで建設中の高速増殖炉「スーパーフェニックス」の前に2万人が集まり、建設反対を訴えました。同じ76年に、米国では、反対運動の結果、高速増殖炉の建設が断念され、先進国では、1980年から稼働し始めた炉をまだ動かしているソ連以外では、高速増殖炉はすべて停止されました。Wikipediaによれば、現在でも開発を続けているのは、日本、中国、インド、韓国くらいのようです。

特に危険なのは、冷却材として金属ナトリウムを使っている点です。ナトリウムは食塩の構成元素の一つですが、自然界には化合物の形で存在していて、純粋なナトリウムだけを成分とする金属ナトリウムは存在しません。金属ナトリウムは、水と激しく反応し、爆発性と発火性をもっているため、水を冷却剤として利用している一般の原子炉と比較して、高速増殖炉ははるかに危険性が高いと言えます。主要先進国では開発が中止されましたが、日本でも早急に廃炉にするべきだと思います。

原発がなくても日本の電力はまかなえる

電力会社が原発を推進してきた根拠は、原発なしでは日本の電力需要はまかなえないという点と、原発の発電コストが安いという点ですが、これは全くのうそだったようです。『週刊金曜日』臨時増刊の「原発震災、破局は避けられるのか」という記事に載っていた下のグラフを見れば、火力発電と水力発電だけで最大発電必要量をまかなえるのは明らかのようです。最大電力(瞬間的な最大消費電力)のピークは2001年で、その後はこれを超えていません。震災後に一時的に電力不足になったのは、むしろ主力の火力発電所の被害が大きく復旧に手間取ったためだったようです。日本は今後人口の減少にともなって高い経済成長も期待できない状態にあります。そんな中で発電能力だけを伸ばすのは無駄なのは明白です。

原発の発電コストについてこれまで国民は、電力会社の業界団体である電気事業連合会が発表していた、1kWh当たり5.3円という数字を信じてきましたが(下の表をご参照ください)、これもうそのようです。たとえば、立命館大学・大島堅一教授が計算した、1970年以来の実績に基づいたコストでは、8.64円、これに利用者が負担させられていて、電気料金に上乗せされている税金(標準世帯で1カ月100円程度で、原発を立地している地方自治体に、豪華な箱物などを建設するための資金として使われる)を加えると10.68円となり、火力、水力を上回るようです。さらに、事故が起こった場合の賠償責任を果たすための保険に入って保険料を支払った場合のコストは、18.68円と火力の倍近くになり、とてもまともな比較はできなくなります。

この件について、「そもそも総研」というテレビ番組( http://www.youtube.com/watch?v=WIPfHUdT0_Y )で詳しく報道されていましたが、この番組の中で、自民党の河野太郎衆議院議員は、経済産業省に発電コスト資料を請求したが、肝心のデータが黒塗りにされた資料しか提供されなかったと言っています。海江田経産大臣は、なぜこんな基本的な資料を公開させないのか疑問です。実は、海江田氏は元経済評論家で、紺屋典子氏、長谷川慶太朗氏、若杉敬明氏などとともに、80年代のバブルをあおったA級戦犯の一人と考えられており、あまり信用できる人物とは言えないようです。その海江田氏が、日本の産業を管轄する重要な経産省の大臣になったというのは、非常な驚きであると同時に、民主党政権の人材不足を物語っている気がします。

発電コストの比較

発電方式 電気事業連合会 実績ベース(A) 実績+税負担(B) 実績+税負担+保険(C)
原子力 5.3 8.64 10.68 18.68
火力 6.2 9.8 9.9 9.9
水力 11.9 7.8 7.2 7.2

単位:円/kWh(キロワット時)、出所:電気事業連合会、A, Bは立命館大学・大島堅一教授によるもので、上記テレビ番組で放送されたもの。Cは、それに、7月9日にNHKテレビで放送されていた原発関連の番組で紹介されていた、保険料8円を加えたもの。

電力会社に都合の悪いニュースは報道されない

この番組では、これまで電力会社に都合のいい情報しか報道されてこなかったことについては、メディアも反省すべきであるとコメントされていますが私も同感です。第一に、原発反対のデモはほとんど新聞記事にならないようですが、CNNや海外の新聞では、かなり大規模なデモが組織されていたことが報道されました。第二に、東電の清水前社長がしばらく雲隠れしたあと登場した4月13日の記者会見では、海外の報道によれば、ほとんど意味のある答えはなかったとされていて、記者会見の最後に、ある記者が'Is this what you call disclosure?'(これで開示と言えると思っているのか?)とやじったと、Financial Timesには書かれていましたが、日本の新聞には、あたかも平穏な記者会見であったかのように書かれていたのには、あきれましたというか、感心しました。第三に、東電は事故後のある時点から、記者会見の質問者に、質問の前に社名を名乗るように要求するようになったそうです。ある記者の方によれば、それ以来、質問はめっきり減ったそうです。つまり、へたな質問をして広告費が削られれば、会社全体に影響すると考えられたのでしょう。東電の公式見解では200億円程度とされていて、電力会社全体では、2,000億円と推定されている広告費のために、日本の新聞・マスコミは電力会社に都合の悪いことはあまり報道できない状態が続いているようです。

「菅下ろし」は、電力政策の転換への抵抗が理由

原発問題は、産業界、経済産業省、自民党、民主党の一部などが利権によって甘い汁を吸い続けることが、われわれ一般庶民の生命、健康、財産に極めて重大な影響を与えうるという意味で、重要な政治問題と考えられます。これと関係して、『朝日新聞』7月5日付に載っていた、作家、池澤夏樹氏の「終わりと始まり・・・政争でなく政策を、ぎりぎりまで居座ればいい」という記事をご紹介させていただきます。

菅首相は、(1)「再生可能エネルギー特別措置法案」を通そうとしています(引用者追記:これは電力会社にとっては、将来の売り上げの減少につながるため、反対なのは明白です)、(2)5月6日には、浜岡原発の停止を中部電力に申し入れ、(3)10日には政府のエネルギー政策を白紙としました。さらに、(4)送電事業を電力会社から独立させる「発送電分離」に言及し、(5)26日のサミットでは1000万戸の家にソーラーパネルを置くという構想を発表しました。これに対して、池澤氏は「ぼくはどれにも賛成する。・・・・・(「菅下ろし」=)「政局の混乱」というのは、要するに、電力政策の転換への抵抗が理由なのではないかと考える。(引用者追記:反対の)主体は、産業界、経済産業省、自民党ならびに民主党の一部(引用者追記:恐らく公共事業利権温存をねらう小沢氏に関係するグループ)であるのだろう。」と指摘し、この文章の最後を次のように締めくくっています。

「今、首相には罵詈雑言に耐えて電力政策の転換の基礎を作ってほしい。策謀が必要ならそれも使い、とんでもない人事も実行し、ぎりぎりまで居座り改革を一歩進めてほしい。なぜならば、福島の惨状を見れば明らかなとおり、原発には未来はないからだ。ドイツとスイスとイタリアに次いで、原子力からの賢明な撤退を選ぼう」

私も全く同感です。

ここまでが本文です。以下は付録ですのでおひまな方は目を通してください。

[付録] --- 斉藤和義さんの「ずっとウソだったんだぜ」にアクセスが集中

『朝日新聞』(2011年4月27日付、夕刊)によると、シンガーソングライターの斉藤和義さんのヒット曲「ずっと好きだった」の歌詞を、斉藤さんご自身が反原発のメッセージに入れ替えたらしい替え歌、「ずっとウソだったんだぜ」が多くのファンの支持を受けているようです。ご本人が歌った映像が4月7日に最初にyoutubeに投稿されて以来、所属事務所、レコード会社との話し合い(というか、スポンサーからの圧力)で、元の映像は削除されたものの、「動画を見た人たちが相次いでコピーを投稿。今もネットで広がる。」そうです。下に一つのサイト( http://www.youtube.com/watch?v=q_rY6y24NAU )から歌詞をコピーさせていただきました。ご本人の映像はこちら( http://www.youtube.com/watch?v=HmxFUEPoPfU&NR=1&feature=fvwp )。


この国を歩けば、原発が54基/教科書もCMも言ってたよ、安全です/俺たちをだまして、言い訳は『想定外』/なつかしいあの空、/くすぐったい黒い雨。/

ずっとウソだったんだぜ/やっぱ、ばれてしまったな/ホント、ウソだったんだぜ/原子力は安全です。/ずっとウソだったんだぜ/ほうれん草、食いてえな/ホント、ウソだったんだぜ/気付いていたろ、この事態/風に舞う放射能はもう止められない/何人が被ばくすれば気がついてくれるの?/この国の政府/

この街を離れて、/うまい水見つけたかい?/教えてよ!/やっぱいいや/もうどこも/逃げ場はない/

ずっとクソだったんだぜ/東電も/北電も/中電も/九電も/もう夢ばかり見てないけど/ずっとクソだったんだぜ/それでも続ける気だ/ホント、クソだったんだぜ/何かがしたいこの気持ち/ずっとウソだったんだぜ/ホント、クソだったんだぜ/


また、去年亡くなられた、忌野清志郎/RCサクセションの反原発の曲、「ラヴ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」も、原発事故のあと注目を集め、音楽評論家のピーター・バラカンさんがDJを務める「バラカン・モーニング」で、「番組を始めて以来、最も多くのリクエストが集中した」そうです。(2011年7月10日)

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